芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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    エルミタージュ美術館 新館


    今秋にサンクトペテルブルクに行きましたが、前回のモスクワに続き、美術館メモを残しておきます。
    エルミタージュ美術館は、世界三大美術館と評される、言わずと知れた世界遺産の大規模美術館です。ルーブルよろしく観光地化している面が強く、メインとなる本館はごった返していました。
    良く知られている、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ルーベンス、レンブラントらの第一級のコレクションはこの本館にあるのですが、19世紀以降の近代絵画は本館向かいの新館に展示されています。観光のルートとして本館に人が集中してしまうため、新館は対照的に客の入りはまばらで、ゆっくりと間近に鑑賞することができます。
    本館のコレクションはガイドブックその他でよく紹介されているので、ここでは新館に絞って展示されていた作品(画家)を列記します。

    本館同様、相当のコレクションの数とクオリティに圧倒されます。ペテルブルクでエルミタージュの本館を(あるいは本館、新館とも)ゆっくり回る時間がない、ということであれば、行列に並び、入っても激混みの本館を回るよりも、新館に絞ってきちんと鑑賞するほうが賢いと思います。
    ちなみに入口はけっこう目立たないので注意が必要です(エルミタージュ本館から振り返って見て、中央から左です)。

    以下、メモを残せた画家を記します(印象派などほとんどみられると思いますが、そう思ってメモしませんでした)。まだ新館が仮設的、可塑的段階かと思うので、展示内容や作品数、展示部屋などは変化あると思います。公式HPが充実しているので確認できると思います。
    また、訪問時はオルセーからマネのオランピアを持ってきて、「オランピア」の歴史的モチーフを紹介する企画展示をしていました。

    ------------------------
    ()があるものはおよその作品数。

    ○フランス絵画1
    ダヴィド、プルードン、グロ、アングル、ルニョー、ジェラール
    ヴィジェ・ルブラン
    ドラロシュ、ジェローム
    ドラクロワ
    ヴィンターハルター(10弱?) …展示室一室が肖像画のコレクションルームになっており圧巻。
    フラマン(7-8) …来日したナポレオンのシリーズなど揃っている。
    C.デュラン(2)、カバネル、レオン・ボナ、ジュール・ジョゼフ・ルフェーブル
    ジャン=ジャック・エネル
    H.ヴェルネ、シェフェール
    クチュール
    ドービニー
    コロー、ミレー、デュプレ、
    G.ドレ、クールベ

    〇フランス絵画2
    ファンタン=ラトゥール …花静物など小品多数。
    ルノワール …作品数充実。
    ドガ(ドガら、パステル専門の展示室もあり)
    セザンヌ、ゴッホ
    ドニ、ヴァロットン
    ボナール …巨大壁画あり。
    マティス

    〇ドイツ、ベルギー(3階)
    フリードリヒ(6-7)…これだけまとまったコレクションの常設は初めて。
    ルイ・ガレ、ギュスターヴ・ド・ヨンゲ
    ルートヴィヒ・クナウス、アルフレッド・ステヴァンス
    ハンス・マカルト、フランツ・クリューガー

    -----------------------

    アネックスといえど、普通に大きな宮殿なのでかなりの部屋数があり、ピクチュアのように吹き抜け部の空間の広さがあります。

    Alice's Adventures in Wonderland より引用
    “Would you tell me, please, which way I ought to go from here?”

    “That depends a good deal on where you want to get to,” said the Cat.

    “I don’t much care where——” said Alice.

    “Then it doesn’t matter which way you go,” said the Cat.

    “——so long as I get somewhere,” Alice added as an explanation.

    “Oh, you’re sure to do that,” said the Cat, “if you only walk long enough.”

    ______________

    チェシャ猫とアリスの会話から。
    ※適当に訳をつけてみました。違ってる部分あれば済みません。

    ア- お願い、教えて。私はここからどこへ行ったらいいの?
    チェ- それはかなりのところ君がどこへ行きたいかによるなあ。
    ア- どこだろうと気にしないわ。
    チェ- それならどこへいこうがどうでもいいじゃない。
    ア- どこかには着く、ということならね。
    チェ- ああ、十分に歩いたなら、きっとどこかには着けるよ。
    ルノワール展 国立新美術館
    印象派画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールの回顧展です。
    オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵ということで、教科書級の折り紙付きの作品ばかりでした。
    ルノワールの個展は、2008年の「ルノワール+ルノワール展」(Bunkamura)、2010年の「ルノワール ―伝統と革新」(国立新美術館)と定期的に開催されていますが、本展は、ムーランドラギャレット、ダンスシリーズ、ピアノを弾く少女等が揃っていることで、この中でもクオリティ的には群を抜いている印象を受けます。これらに遡るマイベストの2001年の「ルノワール展」(ブリヂストン美術館)に比肩するものであったと感じました。

    個人的に注目する初期(1960年代~70年)、中期(1880年代)の作品についてはもちろん揃っていましたが、後期、晩期の作品も作品数があり、この点ではバランスよく画業を俯瞰する構成となっていました。また、肖像画以外の、風景画や静物画、デッサンもほどよく展示されていました。関連作品の展示もヴァリエーションがあって面白かったです。

    一般にルノワールと聞いてイメージされる作品の多くが、1870年後半から1885年くらいまでに描かれた作品ではないかと思いますが、やはりダンス連作など見ると、この時期の作品はデッサンと色のバランスや画面構成など細かく練られており、見ごたえがあります。特に、シュザンヌ・ヴァラドンをモデルにつかった「都会のダンス」は女性のラインとドレスを映えさせるために、男性を画面構成上の物体・道具として効果的に使っています(これは「田舎~」よりも明示的です)。また、「田舎~」と対置させることで、女性の性格やその場の雰囲気、物語性までも醸し出しています。このような面は、群像画でも発揮させており、「ムーランドラギャレット」や「船上の昼食」(本展には展示なし)などに結実しています。
    後期になると、タッチや画面構成などの趣きが変わり、デッサンよりも、肉体表現の量感や色彩に重要度がシフトしていきます。また、パリの都市性などが脱色された古典回帰のモチーフが増えていっており、この点も晩年の作品を語る上では見逃せないでしょう。ルーベンスなどに通じる、普遍的な価値としての裸婦や人体表現という意識がはっきりと見て取れます。上で言及したいわゆるルノワール画と違うので苦手とする方も多いのではないかと思いますが、ルノワールの多面性としての魅力になっていると思います。
    メアリー・カサット展 横浜美術館
    印象派の女流画家メアリー・カサットの回顧展です。
    日本での回顧展は35年振りだそうですが、メインに取り上げられる企画展もそうそうなく、ほとんどの人が彼女の画業を俯瞰する初めての機会になったのかと思います。

    一口に印象派の画家として語られることが多いのですが、最初から印象派グループに属して画法を吸収していったわけではなく、アメリカからパリに渡りアカデミーの絵画を学んだり(ジェロームやトマ・クチュールに師事)、スペイン、イタリア、オランダ等各地に赴いて巨匠の絵を研究したりして素養を積んでいっています。画家としてスタートした20代はサロンでの活躍を志向しており、ドガの先導により印象派に参加するのは30代からです。ということで、アカデミックな教育や趣向のもと、(印象派的なタッチの中にも)デッサン等の基本はしっかりとしており、この姿勢は後年になっても作品を見る限り変わっていないようです。おそらく、カサットとドガがお互いの作品に感銘を受けたのも、デッサンにあったように個人的には感じます。この点は、ほかの主要印象派画家の意識があまり向いていない点で、カサットがずば抜けている点です。展覧会では、この修行期の作品もいくつか展示されており、過去の大家からエッセンスを吸収しようとする姿勢が見て取れます。

    カサットと聞いてまず彷彿される母子像も完成度の高いものがいくつも展示されており、回顧展の充実度を高めていました。
    また、彼女が、油彩やパステル以外にも、版画作品を多く残しており、多色刷り銅版画など大変クオリティが高いことにも驚きました。印象派周辺の例外にならずカサットも日本の浮世絵からの影響を受けていたとのことで、主題や遠近感のない背景や装飾的な構成などにそれが表れていると感じました。
    関連作品の展示もあり、内容的にもよかったです。
    ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち 国立新美術館
    日伊国交樹立150周年特別展として、フィレンツェ、アカデミア美術館のコレクションを紹介する企画展です。初期から晩期までのルネサンス期ヴェネツィア絵画を見ることができます。

    展覧会の核はティツィアーノのサン・サルヴァドール聖堂祭壇画「受胎告知」で、キャンヴァスサイズ410 × 240cmと相当に迫力があります。影響を与えたとされるエル・グレコの受胎告知よろしく、ドラマティックな構成と筆致によって描かれています(調べてみたら、エル・グレコはこの作品を見ている、とありました)。静謐な作品の多いティツィアーノで、これほど勢いのあるタッチはあまり目にしないので驚きもありました。もう一点の「聖母子(アルベルティーニの聖母)」は穏やかで、対照的に映ります。
    ほか、ティントレット、ヴェロネーゼなどの大家の作品もありました。
    また、ティツィアーノの影響を受けていると説明されていた、パドヴァニーノの作品も気に入りました。「オルフェウスとエウリュディケ」と「プロセルピナの略奪」ともに量感のある肉体表現に圧倒されました。特に「プロセルピナの略奪」のほうは、プロセルピナとプルートの重なり合いと対照が良いです。

    平日にいきましたが人はまばらで、おそらく土日でも混みがないように思いました。
    作品数も約60点と多くなく、ゆっくりとヴェネツィア絵画を鑑賞できる企画展でした。
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