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  • ドロシー・L・セイヤーズ ピーター・ウィムジィ卿シリーズ


    セイヤーズのピーター卿シリーズは、クリスティのポアロシリーズと並んで、イギリスの推理小説黄金期を代表する作品。

    セイヤーズは推理小説家として知られますが、それ以外の才能も持ち合わせた「文学人」といっていいでしょう。ラテン語、フランス語、ドイツ語が使え、オックスフォード大学卒業後は教師にもなっています。
    また詩集や、戯曲、エッセイも残しています。さらに有名なのが、晩年の、ダンテの『神曲』の翻訳です。
    このように、多彩な能力を発揮する才女だったわけです。

    そして、彼女の推理小説の主人公がピーター・ウィムジィ卿です。
    貴族の次男で、古書、音楽、グルメなどに精を出す相当の趣味人。
    従僕のバンターは、そんな活動的な主人に付き従う、冷静沈着で仕事のできる補佐役。
    友人のパーカー警部は、ピーター卿の推理を支える協力者です。
    この三人を主軸に、ピーター卿の家族や、後半には、恋人となるハリエット嬢を交えて物語は進みます。


    セイヤーズの特徴は、時には増長とも言えるような、綿密な状況、心理描写にあります。これは、淡々とした書き味のクリスティと対比されるところで、人々の内面の描写を重んじるセイヤーズのスタンスが出ているところです。
    また、そのため会話も多く交わされ、その中にも、遊びの要素が多くあります。会話の端々に文学や詩篇からの引用やもじりがあふれていて、女史の博学が嫌というほど味わうことができます。
    加えて、貴族世界が主要な舞台にもなっているので、セイヤーズの小説は、物語色が強いというか、もっというとファンタジックな感じを受けます。

    確かに、客観的に見ると、くどいといえるような叙述は、一部からは好まれないように思います。文学や宗教やその他の文化に詳しくない、というより女史の知識に追いつけない部分が必ずありますし。
    しかし、セイヤーズが多くの読者を獲得し、現代の著名作家からの信奉を多く集めている部分も、この特徴的な描写方法なのです。
    会話は、結構ユーモアにあふれていて面白いです。何か起こると「ボリシェビキの陰謀じゃないの?」と心の中で密かに突っ込む僕の癖は、ピーター卿ゆずりです(!)。

    そういうことで、セイヤーズは、寡作とされる作家だと思いますが、それぞれの作品の緻密さ、重厚さは光るところです。
    書店や図書館でシリーズがざらっと並んでいるのを見ても感服しますね。僕も、良く読んだと自己満足したり。

    作品は、最後の長編「忙しい蜜月旅行」以外は創元社で読めます。
    西村敦子氏の独特なカバーイラストが目をひきます。また、「忙しい蜜月旅行」は最近、早川書房から新訳が出たようです。(著者表記にミドルネイムのイニシャルの「L」を抜いているのは少し疑問です。)
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