芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • ミシェル・トゥルニエ 「海辺のフィアンセたち」


    フランスの小説家、ミシェル・トゥルニエの短編集。

    短編といっても、物語、紀行文、エッセイ、散文詩などが混在し、ひとつの形式には捉えられていない。それ故、テーマも、「家」「身体」「子供たち」「イメージ」「町」…、といった数々の章のもと多岐にわたっている。そこから俯瞰できる印象は、哲学や芸術などの幅広い分野の知悉、そして人間の根源にあるエロティシズムへのアプローチである。

    まず、トゥルニエが、大学で哲学を学んでいたということもあって、哲学や歴史に対する言及は多い。幾つかは、一種の哲学論考のように読める。
    さらに、写真技術はプロ並みということらしく、さらに美術、音楽などに相当造詣が深いので、同様に、美学、芸術論として読める文章もある。そして、それらを知識人的なエロティシズムが覆っている。もちろん、読み手によっては、これらはただの衒学と捉えられてしまうかもしれない。しかし、彼の博学は、読者を一瞬、立ち止まらせ、迷わせる不思議な効果もあるように感じる(彼と同程度の知識があれば問題なかろうが)。
    そして、この一種の「衒学さ」は、それだけに終始することなく、彼自身の独特な評言をまとめ、また引き出す効果も持っているといえるだろう。

    僕はこの本の幾つかの短編とフランス語の授業で出会った。短くて、不思議で興味深いものだったので、訳すのもそんなに苦にはならなかったのを覚えている。(授業では、この訳本を取りたてて参照することはなかったが、先生いわく、少し訳し方には疑問があるということだった。)

    最後に、この本の末にある「ある作家の死亡告知」から、最後の数行を引用してみたい。
    この「ある作家」というのは、自分自身のことで、トゥルニエは、自らの死に際する回顧文を書いているのだ。

      愛について、彼は次のように言っていた。「相手の身体のどこよりも、その  顔に肉欲をそそられる時、その人を本当に愛しているのが間違いなくわかる」
      彼がもし墓石を持っていたなら、彼は次のような墓碑銘をそこに刻んで欲しいと願ったことだろう。
      「私はお前を熱愛した、お前はそれを百倍にして私に返してくれた。ありがとう、生命よ!」
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