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  • スコットランド国立美術館展 Bunkamura ザ・ミュージアム


    スコットランドの首都エディンバラにある複合美術館、スコットランド国立美術館から、印象主義などのフランス絵画と、18‐19世紀のスコットランド、イングランド絵画を選んでの展覧会です。
    この展覧会でも、パリのアートの価値とその広がり、というものが顕著に見て取れます。また、この時期のイギリス絵画に個人的にても興味があるので、貴重な機会であり、大変刺激を受けた展覧会でした。

    展示は、イギリス、フランスの絵画をそれぞれのサークルにまとめて順に展示するものになっていますが、作品リストでは、Ⅰフランス絵画、Ⅱスコットランド絵画に大別して数字をふって並べてあり、カタログでもそのようになっています。実際の展示では、歴史の流れに沿って、それぞれの絵画潮流、表現形態を考慮して見られるつくりになっていて、作品リスト・カタログでは、まず国別に、次に画家別に整理し、その中で流れを持って見られるつくりになっている、ということです。

    入ってすぐに現れるのが、サー・ヘンリー・レイバーンの女性肖像画。スコットランドを代表する肖像画家として名高い、レイバーンは、ルーヴルのイギリス絵画部門で一度見たときに、すぐに魅かれた画家でした。彼の描く人物は、暗い背景から浮き上がってきて、柔らかな黄色い光を当てられ、とても崇高に見えてきます。今回の展覧会の作品も、とてもそのような崇高さと、緊張感を持った良い作品。また、これと、初期に描かれた、中佐の肖像画がありますが、こちらは、古典的な絵画技術にのっとった、細かいタッチでしっかりと仕上げられた作品です。
    また、最初のセクションでは、ホレイショー・マックロックという人の、風景画の大作が良いです。木、草木や岩などの描き分けが見事です。
    それから、同じ風景画では、アレキサンダー・フレイザー(子)の油彩画がすごいです。古典化されたタイプの木々を描くのではなく、ラファエル前派などの影響もあって、すごくリアルに、また精密に、木が生き生きと茂るように描かれています。まったくこのような技術には驚嘆するしかないです。

    さらに進んだ一画にあるのが、サー・ジョン・エヴァレット・ミレイの「優しき目は常に変わらず(“Sweetest eyes were ever seen”)」(上図)。はっきりいうと、この展覧会で一番の異彩を放つ、「一旦見ると前から離れられなくなる絵」です。
    ミレイの絵は、実際に見たことがあるのはほんの数点ですが、その中の油彩は、ラファエル前派に加わっていた時期のもので、一見水彩画のような感じの、下地をつくってから、精密な筆での薄塗りで描かれていく絵でした。しかし、ラファエル前派と決別してからの、この後期作品にあたる肖像画は、そのような絵画技法とは違う、大き目のタッチで、絵の具を厚めに塗っていく、油彩の特徴を良く生かした絵で、正直実際に見ると、ここまで画風が違ってくるのかと驚きました。肌のつくり方とかは違いますが、なんとなく思い返すと、クールベに見られるような、大胆さを伴う精確さを感じました。
    とにかく、圧倒されるほどの人物表現で、ここまでくると、描かれている人物も大きなファクターになっているのだろうと思います(子役俳優ベアトリス・バクストンとのこと)。勿論それを最大限引き出す画家の力量があるわけです。
    この絵の側には、スコットランド画家のジェームズ・アーチャーの子供たちの集団肖像画がありますが、こちらは、ミレイのラファエル前派期の画風が再現されています。このような、ラファエル前派お得意の0.数ミリという次元の仕事をこなすのは、真似しようと思って画風を獲得できるものではないと思います。やはりジェームズ・アーチャーの才能と力量あってのことでしょう。
    それから、スコットランド画家でミレイの影響が顕著なのが、ヒュー・キャメロン。1959年制作の「干草日和」は、人物はともかくとして、背景の草むらはラファエル前派の影響を受けた、植物学的な精確さで描かれています。対照的に1881年頃制作の「キンポウゲとヒナギク(画家の娘)」はこのような描き方はしておらず、大きなタッチで絵の具を塗り重ねています。このような画風の転換は、ミレイの画風の転換におっていて、ヒュー・キャメロンはミレイの絵を研究していたらしく、彼の変化に伴い、自らの画風も変えていったみたいですね。

    フランスの画家の方は、バルビゾン派、印象派の主要な画家の作品が見られます。特にコローの4点はクオリティが高いです。クールベの風景画は、コバルトブルーに統一された色調が綺麗です。
    アンリ・ファンタン=ラトゥールは、花、桃を描いた小さな静物画が3点あります(下に1点)。どれも、淡々とした焦げ茶系統の背景に、対象が厚塗りで背景と対照的に塗られていることで、花や桃が浮き上がってきて引き立っています。肖像画も静物画も上手く描くんだなと感心しました。
    ジュール・バスティアン=ルパージュは、写実主義、自然主義においては屈指の影響力を持った画家。彼の描く子供は、性格や気持ちまで見てとれそうな飾らない子供の表情が良く表現できていますね。僕も子供の肖像を描いたことがある経験上、とても感心させられます。

    油彩はコメントは以上で、この展覧会には、水彩、パステルなど、油彩以外の画材で描かれた絵を集めたセクションがあります。同じ画家でも表現形態が異なると雰囲気が変わっていたり、それぞれの画材の長所が見れたりして、油彩との比較で勉強になるセクションでした。水彩では、デイヴィッド・ヤング・キャメロン「青白い光」とアーサー・メルヴィル「東方の情景」良かったです。前者は、空、山、湖が、緑がかった水色の筋で表されていて、それらが焦げ茶の木々から浮かび上がってくるような感じは幻想的です。後者は、水彩のたらしこみ、グラデーションなどの水彩独自の技法を駆使した作品で、描かれているのがオリエンタルな情景ということもあって、とても奇妙な、不思議な面白い作品になっています。

    今回の展覧会を考えると、2003年に開かれた「ミレー3大名画展」が想起されます。この展覧会は、オルセーを中心に各地から、良い18‐19世紀のフランス、イギリス、ベルギーを中心とする絵画を集めたものでした。
    それというのも、二つの展覧会で、ミレイ、クールベ、ドーミエ、ミレー、デュプレ、バスティアン=ルパージュ、ピサロ、ドービニー、ジェームズ・ガスリーと重なる画家が多く、コンセプトも似ているからです。
    この「ミレー展」が個人的にかなり心に残った、収穫の多い展覧会だったのと同じように、「スコットランド国立美術館展」も、自分の関心に良くマッチした、クオリティの高い展覧会でした。このような展覧会を一つの美術館のコレクションでできてしまうというのも、スコットランド国立美術館のコレクションの充実が良く伝わってくるところです。





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