芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • 現代社会の倫理をめぐる諸問題の特徴
     現代の倫理をめぐる問題は、極めて、現代社会に特徴的な段階に至っている。つまり、それは、科学技術の発展に裏打ちされた、高度消費化・情報化社会、高度医療社会などという現代社会を特徴づける諸相に根ざす問題である。
     それ故に、多くの問題が、発展の裏返しとして生じ、その多くは、ジレンマ、矛盾といったものとは切り離せない。ある一部の階層、集団が求めることが、多くのものの一般的とされる道徳意識とぶつかりながらも、公的な承認を得ても、また得ずとも、ある種の生存権を与えられたままでいることが一般化さえしている。
     過去には実現不可能とされた人々の望みが最大化されて遂行されうる状況になったことで、そもそもの望みを否定できないというような領域に問題圏は広がっているのである。そして、その望みは、それ相当のアクチュアリティを持ってしまっている。
    このような問題は、往々にして生命倫理の問題に関係する。例えば、苦しまず自らの死を決めたいとする安楽死、妊娠できないが自分の子供が是非とも欲しいとする、人工的な受精、代理母やクローン技術などの応用、さらに子供を生む、生まないも自己判断できるという、中絶や着床前診断などの医療の問題において最も顕在化していることである。
     過去の倫理的な問題は、主に階層ごとの道徳的な対立という構図の元で争われていたように思う。現代とは格段の差で、経済的、社会的な身分が規定されていた時代においては、各階層、目的集団ごとの道徳、倫理というものが設定され、それも明確に個人に根付いたものであった。
     しかし、資本主義が発達し、民主主義が普遍化しつつある現代では、この各階層・集団の、アウトラインが多少なりとも明確に描かれた道徳規範というものが崩れてしまっている。資本主義という、人の際限ない欲望を前提とし、それを満たしていくことで自己増殖を進めるシステムの中で、その欲望は、実現可能性と、多様性の中の一つの価値という立場を与えられている。このような状況においては、各階層、集団の本質的な道徳規範の差異性は薄まっていく他なく、諸個人が、際限ない望みをかなえることへの潜在的な可能性を共通に持ち、その望みを持つことは肯定されるので、それは一つの価値観として否定し難いものとして存続し続ける。前述した生命倫理の問題はもちろん、インターネットなど情報技術に関するもの、性に関するもの、経済・市場などに関するものなど、どれをとったとしても、そこには一定の立場を持つ価値観が働いている。それらに関する問題群中で、法的な規制によって取締りができない領域、つまり、全構成員に提示されるルールに縛られない領域に関しては、繰り返すが、そこにある欲望は抗し難い力を持って追求され、遂行されていく。もちろん、法に規制されたとしても、非承認のレヴェルで、その欲望は存続し続けるだろうし、それらを規制しようとする法の力は、資本主義・民主主義という拡張的な前提を侵害しない中でしか働かない。追求される欲望には、それが本質的であるほど、打ち消せない、希薄化できない実効的な力がある。
     このような現実の中で、現代の倫理問題の解決は、突き進んだ欲望に関する価値判断を矯正するというよりも、その混在する諸価値判断の調整をするという役割をどうこなしていくか、ということに重きを置いていく他ないだろう。この意味で、近代社会になって問題化されたアノミー化は、現代社会になって、病理状態から正常状態へと移行した感さえ覚える。社会科学が根源に持っていた、社会の秩序化、病理の診断・矯正という意思は、現代社会にいたって、そのリアリティが薄れてしまっているところまで、今ある倫理問題はより深い問題を作り出してしまっているように思う。
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