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芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • チェーホフ 『箱に入った男』
    アントン P.チェーホフ
    中村喜和訳
    未知谷、2008

    物語中ベリコフという名の男のことである「箱に入った男」は、杓子定規で型にはまり、不寛容な人物として描かれているが、もっと抽象的に、そのような行動・思考様式、社会的な空気感のように象徴化されているようである。
    ただの社会悪ということではなく、人々の生活が無意識的に、あるいは不可避的に箱にとらわれている、とらわれざるを得ない側面も指摘されているところも興味深い。

    「私たちは町で狭苦しいところに暮らし、要りもしない書類をつくり、トランプ遊びをしています。これも箱ではありませんか。一生を怠け者や訴訟狂いや愚か者や引きずり女たちのあいだで過ごし、さまざまな空疎なことをしゃべったり聞いたりしています。これも箱ではありませんか」

    ベリコフは死んで、人々は自由を手に入れたかに思えたが結局はそのような生活や空気感は変わらなかった。
    このことは上記のことがらを強く印象付けている。
    物語の最後は以下のような、はっとする発言が挿し込まれている。

    「他人が嘘をつくのを見たり聞いたりしながら」
    「その嘘に目をつむっている者を、世間では馬鹿者と呼びます。侮辱やさげすみを我慢したり、自分は誠実で自由な人間の側に立っていると公言できなかったり、自分自身が嘘をつき、へらへら笑っているのも、ただ一かけらのパンのため、暖かいねぐらのため、三文の価値もない官位のためなんです。いや、もうこんな暮らしはたくさんです」

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