芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • 『いちご同盟』『春のソナタ』 三田誠広


     日本の作家で、大衆に良く読まれている人に宮部みゆきや、村上春樹などいますね。そして、近年爆発的にヒットしたのに、『世界の中心で愛をさけぶ』とかありました。僕はこういうような大衆化した日本の作品は読みませんが、唯一読んだといえるものが三田誠広の小説です。

     中でも、この『いちご同盟』、『春のソナタ』は彼の代表的な青春小説。前者が中学生編、後者が高校生編と対をなすような作品です。両者に共通しているのは、人生の岐路に立った少年が、悩み、愛し、決意し、そしてこれからの人生を強く生きようとする姿が書かれていることといえます。
     それと、両方の主人公とも音楽にとても深く関わり、それをアイデンティティとしていること。中学生の主人公は、ピアノの先生の家に生まれ、将来音楽の学校を目指す、ピアノ少年。この作品は、初めからラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」が、主人公の愛する曲として度々、演奏されていきます。僕のラヴェル好きは、ここの影響もあります。
     対して、『春のソナタ』の高校生は、有名な先生についた、腕のあるヴァイオリニストで、父はプロのピアニストという家系。その父と主人公を結ぶ重要な曲として、タイトルも示唆するように、ベートーヴェンの「ヴァイオリンソナタ、春」がでてきます。
     どちらも、演奏される曲のイメージをとらえた表現が上手く使われていて、それが心理描写にもつながってくる効果は、絶妙です。やはりそれは、それぞれ核となる曲がもたらすものが大きく関わっていて、作品全体の基調を作っています。

     また、両方の主人公ともに、運命の出会いが待っていて、核となる女性とのやりとりが物語を進めていくことも大きな要素ですね。その女性の位置も、作品によって違うのですが、やはり、中学生の「僕」にとっては純愛といえるもの、高校生の僕にとっては、父との関係もあって複雑な想いといえるのもとしてそれらが表現されていきます。最後には、ヒロインとなる女性との決別がありますが、それがどのような形でなされていくかも物語の重要なところです。

     そして、両方の作品が、愛を扱ったものであると同時に、生(死)を扱ったものであるということ。単純な青春の1ページを刻む愛では終わりません。両者ともに、とても読むものに愛と繋がった、生や死の問題を突きつけてきます。青春小説の部類ですが、ここら辺はとても重いものを持っています。爽快な気分で読み終えることはできないような深いものを与えているのです。「春のソナタ」ではそれが顕著で、ここら辺は、少々読者の共感を呼びにくいようですが。

     少し、ネタばれな論評になりましたが、こんなことでは魅力を削ぐことはできない良い小説であることは確かです。多分、主人公と少し似たような過去の自分を見つけたりすることもあるかと思います。感受性が豊かで、その分心の揺れが大きいこの時期の少年、それも少し特殊な、周りからは陰鬱な、といわれてしまいそうな少年の姿を真に迫って描いた小説です。


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