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  • セガンティーニ展 Bunkamura


    スイス・アルプスの画家として知られる、ジョヴァンニ・セガンティーニの本格的な回顧展です。
    一時は震災の影響で中止となっていましたが、貴重な展覧会が開催できる運びとなって本当に良かったです。内容もかなり充実しており、さまざまなところから作品を集め、展覧会が綿密に構成されていることが分かります。
    2011年は個人的には展覧会に出かける回数が減っていましたが、最後にセガンティーニ展が見られて満足しておわれた、と感じられるほど光った展覧会でした。

    私がセガンティーニを初めて見て意識したのが、2003年の「ミレー三大名画展」だったと記憶しますが、それからは機会があるときに数点ごと鑑賞するくらいで、セガンティーニの画業のおおよそを知るということはありませんでした。
    今回は、セガンティーニの初期作品から、遺作の三部作にいたる作品を見ることができる、しかも、アルプスの山々を描いた作品だけではなく、肖像画や象徴主義作品も完成度の高い作品を集めてある、ということで、これまで断片的であったセガンティーニの理解が深められる展覧会になりました。

    Ⅰ章に並ぶ初期作品は、見たとおり、暗く、陰鬱な作品が目立ち、まだ特徴的な筆触分割は見られません。ただし、デッサンの上手さ、綿密な画面構成、タッチを生かした表現は初期作品から十分に感じられます。色数の少ない暗い画面は、セガンティーニが制作を行った、ブリアンツァ地方の気候(日照時間が短く、霧が多い)も関係しているようですが、暗い画面でも移ろいやすい光をとても繊細に表現しています。
    Ⅱ章からは、独特の線描・筆触分割の技法を用いた作品群が画題ごとに配置されています。
    アルプス風景画もいいのですが、肖像画、象徴主義作品のセクションでも、とても力が入った完成度の高い作品があり、画家の力量をまじまじと見ることができます。「カルロ・ロッタの肖像」、「虚栄」などは、タッチの方向・大きさ、色調など、細部からとても綿密に構成されており、セガンティーニの分割主義作品のひとつの頂点としてあるように思います。
    また、このような線描での一点の隙も感じさせない完成作を見せられると、たとえば印象派の油絵を見るのと違って、制作過程がなかなか見えてこないのですが、習作や下絵の類も展示されていることから、セガンティーニがどのように制作を行っていたかも見えてきます。
    制作過程を見るにふさわしい作品は、ラフなタッチが残る油彩「じゃがいもをむく女性」、パステルで描かれた「「生」の習作」、コンテ・クレヨンで描かれた、「「死」の習作」、あたりと思います。習作・下絵の段階から、パステル・クレヨンなどでタッチの流れ・まとまりを細かいところまで決定しており、それにしたがって、キャンバス上にタッチを並べ重ねていく段階が見てとれます。さらに、パステルのストロークも長いものから短いものまで対象の表現を考慮して重ねられており、特に長いストローク・タッチとなるところは、油絵具を筆でさっと塗っていくというよりは、絵具を筆で伸ばして置いていくという工芸的な手法でもってつくられていることも分かります。あくまでコンテ・パステル・クレヨン類で描かれる習作・下絵は完成作の下に位置するものですが、線的なタッチという面では滑らかで、画材の良さが活かされた軽快かつ自由な動きがあり、これを油絵に変換した完成作の重厚さ、静的/工芸的なところと比較すると、下絵という性格や支持体・画材によった、その持前の良さが感じられます。

    展覧会図録ですが、絵の図版そのものは、セガンティーニの用いる色数の多さ、独特のタッチなどからくる限界のため表現性は高くはないことは否めませんが、セガンティーニの図録・画集の少なさに加えて、本図録がセガンティーニの画業を網羅的にカヴァーしていることもあって、価値あるものになっていると思います。また、あまり文献の整っていないセガンティーニの生い立ちや生活、考え方を知ることのできる論文がおさめられており、資料的にも有益なものになっています。
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