芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • エル・スール


    1983年にビクトル・エリセ監督の同名映画の原作となった中編、とのことですが映画は見ていません。
    物語の舞台はスペインで、タイトルのエル・スール=南は、語り手の少女の父親の暮らしたアンダルシア地方のセビーリャを指しており、娘・父との心的関係の中で象徴的な意味が持たされています。

    物語は、全編通して語り手の少女・アドリアナの独白という形になっていますが、それが亡き父親への語りかけという一種異様な体裁をとっており、読者は少女の語りから少しずつ見えてくる小片をつなぎ合わせ、物語の世界をイメージするという役割を負わされています。
    アドリアナの家族や家の状況、そしてキイとなる父親、さらに彼女自身でさえも、まだ十いくつの少女(それも「ノーマル」はいえない少女)の独白から徐々に広がりを見せ、読者のなかでかたちづくられる、というのも面白く、淡々とした語り口ながら引き込まれてしまういます。
    亡き父親は魔術師のような存在であって、今でもアドリアナの精神世界の大きな支柱となっていることはすぐに分かるのですが、ただ単に父親への慕情(ある種の崇拝)が連なっていくということには終わらず、重層的に彼女の父親に対する感情が紡ぎ合わさり、その複雑さ・アンビバレントさが物語に独特の影や深みを生んでいきます。この語り口や情景描写などは本当に作者の感性の高さがうかがい知れます。

    中編ということでライトに読めてしまう作品ですが、モノローグの中に少女の精神世界を覗くような感じで、読み終えた後はちょっと非日常で不思議な心持のする小説になっています。
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