芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
  • calendrier
  • 国立トレチャコフ美術館展 忘れえぬロシア Bunkamura ザ・ミュージアム


    モスクワ・国立トレチャコフ美術館の、19世紀~20世紀初頭のロシア絵画を展示する展覧会です。
    副題は「リアリズムから印象主義へ」となっており、ロシア美術の様式の変遷を辿れる構成になっています。
    数年前の国立ロシア美術館展はスルーしてしまったので、これが初めてのロシア絵画オンリーの鑑賞となりました。今考えたら本当に行っておけば良かった…。
    以下、各章を追って概観します。
    第1章 叙情的リアリズムから社会的リアリズムへ
    ロシア・リアリズムの初期の画家ヴェネツィアーノフや、そのリアリズムを受け継いだ風景画家サヴラーゾフがメインとなる章です。
    個人的には、人物の息遣いを感じさせるワシーリー・ペローフの作品が良かったです。
    老人と少年が鳥を捕まえようとする場面を描いた「鳥追い」は、画面には見えない鳥を見つめる二人を、斜め後ろの方から第三者の視点で見た構図になっています。絵に表現された緊張感や物語性という観点からも彼のリアリズムの高みを見ることができる作品だと思います。


    第2章 日常の情景 
    この時代に最盛期を迎えた、ロシアの風俗画を概観する章です。
    絵に登場する人物たちの関係や、その集まりの雰囲気を上手く表現している作品が多かったと思います。
    ニコライ・ネーヴレフ「お見合い」、ウラジミール・マコフスキー「愛の告白」は男女の微妙な距離や思惑を表すのに成功している絵です。特に前者は、閉じられた部屋の空間の中に、当事者に代わって話をまとめようとする両者の親を配し、細やかに調度品を描いた完成度の高い作品となっています。


    第3章 リアリズムにおけるロマン主義
    精緻に、そして技巧的に仕上げられた、まさに「油絵」という絵画が多かった第1章、2章の後の、第3章は、リアリズムにおけるロマン主義的傾向を追う章になっています。ここからクラムスコイらの絵画が登場し、展覧会は格段に面白くなってきます。3章からの絵は、どれもこの時代のロシア美術のクオリティや様式を伝えてくれるもので、最後まで息のつかせぬまま楽しむことのできる展覧会になっていると思います。

    ・アルヒープ・クインジ「エルブルース山 月夜」、「ヴァラーム島にて」
    前者は、日本画を思わせるような、質感・発色、そして構図をとっています。深い青緑と明るいバライタ・グリーン調の色によって表現された山が、ロマン主義的であり、幻想的でもあり、構図としては単調かもしれないですが見入ってしまう作品です。
    後者は、荒涼とした水辺の風景を描いた大作です。一見してごつごつした岩場のつくりこみに驚かされますが、画面左から右にかけての、明暗のトーン&遠近・視野の広がりが良く練られていて、絵としての表現性が楽しめる絵画になっています。
    レーピンやクラムスコイが見所となる展覧会ですが、クインジも劣らぬ力量を示しています。

    ・クラムスコイ「髪をほどいた少女」
    髪をほどき、椅子?に身をよこたえる女性を描いた作品です。女性の微妙な表情、髪の質感、光の当て方など素晴らしく、一種形而上学的な装いまで感じさせます。

    ・ニコライ・ドゥボフスコイ「冬」
    一見して、モネの「かささぎ」を髣髴させる題材です。
    ピンクや青の入った、表情豊かな雪が、作品の幻想性や気品を示しているようです。



    第4章 肖像画
    表題とおりの章ですが、クラムスコイ、レーピンがメインとなっており、彼らの作品を十分に堪能できる章となっています
    やはり、展覧会PR作品になっているクラムスコイの「忘れえぬ女」がひときわ違った趣で存在しています。展覧会に足を運ぶまでまったく意識をしていなかったのですが、作品の前に立つと圧倒的な完成度と緊張感のせいで長く見入ってしまいました。
    人物と背景とを完全に切り離し、ややあおりの視点で捉えられた女性は、表情や衣装も手伝って強い存在感を見せています。挑戦的、意欲的な作品であると思いました。

    レーピンは、「画家レーピンの息子、ユーリーの肖像」「ピアニスト、ゾフィー・メンターの肖像」「文豪ツルゲーネフの肖像」など完成度の高い作品が集まっています。
    仕上げ方もさまざまで、細やかな「ユーリー」、筆がのり、生き生きとした「ゾフィー」、厳かな「ツルゲーネフ」…、とモデルの内面までを表現するような多彩な筆捌きが見られます。


    第5章 外光派から印象主義へ
    この時代、ヨーロッパ諸国にフランス美術の影響が広がっていたことは作品を通して見て来ましたが、ロシアにもそれが現われており、それがこの展覧会の作品のようなレヴェルまで昇華されていたことには大変興味を持ちました。

    ・イーゴリ・グラバーリ「九月の雪」「散らかった食卓」
    二つの作品が同じ作者だとは思えないような、趣の異なった二枚です。
    「九月の雪」は雪の積もったテラスを一点透視図法的に描いた作品です。雪の存在感が、上手い陰影によって表現されていて、構図的にも面白い作品だと思います。
    「散らかった食卓」は分割主義的な作品です。テーブルクロスの青のトーンが、重厚に、そして繊細につくりこまれており、大画面に引き伸ばされても冗長さを感じさせません。

    ・フェドート・スィチコフ「田舎の美人」
    背景などの塗りこみは抑えられており、表情に力が入れられています。やさしい肌のつくりがとても素晴らしく、個人的には目指したい表現の一つに感じました。
    全体の抑えられたトーンが、女性の赤いずきんを引き立てています。


    東京展が終わってからは、岩手、広島、福島をまわる長丁場な展覧会になっています。
    ちなみに、自分は初めて、展覧会の初日に見に行くことができました(レビューはかなり遅れてしまいましたが…)。
    初日の午後ということで混んでいるかなとも思いましたが、ゆっくり見られて良かったです。
    ここ最近の展覧会ではひさびさのヒットでした。これからもロシアの近代絵画に注目していきます!
    スポンサーサイト
    コメント
    この記事へのコメント
    コメントを投稿する
    URL:
    Comment:
    Pass:
    秘密: 管理者にだけ表示を許可する
     
    トラックバック
    この記事のトラックバックURL
    この記事へのトラックバック