芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
  • calendrier
  • ジョン・エヴァレット・ミレイ展 Bunkamiraザ・ミュージアム


    英国ロイヤル・アカデミーの巨匠、ジョン・エヴァレット・ミレイの大回顧展です。
    ミレイの作品は日本ではあまりお目にかかることはないし、見る機会にも一点、二点という感じだったので、個人的には待ちに待った展覧会です。

    今展は、イギリス、テートから巡回してきている展覧会ですが、意外にも、本国イギリスでも回顧展というのは、19世紀末に開かれたのを最後にしてなかったとのこと。ということで、実に110年ぶりの本格的な回顧展になる、というのもすごいです。
    東京展は、イギリスのテート、オランダのゴッホ美術館に続く巡回展ですが、内容は若干というか、かなり相違があるようです。手元にゴッホ美術館での展覧会図録があるのですが、これを見る限り、現地での展覧会は、「イザベラ」「落ち葉」「ラスキンの肖像」「箱舟の鳩の帰還」などなど、初期の作品が充実しているようです。個人的にはラファエル前派時代の精確無比な描写を多く見たかったので、ちょっと残念。しかし、後年の作品は結構見ごたえのある内容になっています。
    ■ラファエル前派
    ・ギリシア戦士の胸像 
    一見して、子供が描いたとは思えない出来栄えです。若い芸術家を対象としたコンクールで銀賞をとった作品というのもうなずけます。かなり細かく丁寧に陰影が表現されており、少年ミレイの天才が分かる作品です。 

    ・両親の家のキリスト
    2点の習作が並べられています。ミレイの習作というのを初めて見ましたが、画面が整理されており、エッチング作品と見間違えるような、固く整然とした線で描かれています。オフィーリアのものも見ることができますが、習作は画家の構想を見られ面白いです。ちなみに、ミレイは原寸大の下絵というものはめったにつくらなかったそうで、小さな習作ばかりです。
    完成作は、発表当時かなりの悪評を招いた作品だったそうですが、今見る分には、特徴的な人物配置、衣服や木屑のディテイルなど見所のある作品として見られます。

    ・マリアナ
    個人的にはベストなラファエル前派時代の作品です。主題は、シェークスピアの「尺には尺を」から着想を得た、テニスンの詩『マリアナ』から採られています。これとは違った構図の挿絵も見ることができます。
    ベルベット生地の青色の服がとても綺麗で映える作品だと思います。暗く深い青と、光を受けた青のコントラストは見入ります。そのほかには、室内装飾や外の風景、ツヤっぽく表現されたステンドグラスの描き分けが見所だと思います。

    ・オフィーリア
    確かに実物はすごい。若干遠くにあるので、ディテイルはオペラグラスなどで拡大しないと見えてこないかも。個人的は印象レヴェルまでで鑑賞が終わってしまった。もっと近くでゆっくり見たい作品です。この作品がある限り、ミレイの魅力はあせないでしょう。


    ■物語と新しい風俗
    ・救助
    色調のつくりかた、劇的な画面構成など、力のこもった作品です。これは図版ではよさは味わえないので、直接見なければいけない作品だと思います。炎によって赤く染められた子供、画面の外を見つめる子供の視線、子供の体のラインで切り取られた構図、このような要素を集めて、緊迫したドラマティックな場面を作り上げています。

    ・1746年の放免令
    衣服の質感のかき分け、犬の毛並みなどの表現で目をみはる作品。


    ■耽美主義
    1860年代の作品に移りますが、ミレイがラファエル前派の様式を脱し、独自のスタイルを確立していく過程が見所になると思います。個人的にも、ラファエル前派が崩壊してから、どのように画風が変遷していったのかはとても興味があったので、この時代の作品からはいろいろと刺激を受けました。
    1850年代後半の絵では、まだラファエル前派時代の固さや精密さが目立つ作品になっていますが、1860年初めの「エステル」では大振りの筆致が用いられ、さらに1968年の「姉妹」では、このようなタッチがいたるところに見出せます。特に、リボンなどは数タッチで形作られています。ミレイが、筆を重ねることではなく、勢いのあるタッチによって表現を確立していこうとしていった過程が見えてきます。ベラスケスへのオマージュのような「ベラスケスの思い出(1868)」、「ああ、かのようにも甘く、長く楽しい夢は、無残に破られるべきもの(1872)」では、ミレイのキャリアにおける、そのような表現の頂点として見ることができると思います。ラファエル前派時代の作品を見ていると、ちょっと、これがミレイの作品だとは思えない筆致で、驚かされます。
    こうした伸びやかな、勢いのあるタッチは、やがて抑えられ、ディテイルとタッチのバランスのとれた後年のスタイルにたどり着く、といった流れが、後のセクションの絵画から見えてきます。


    ■大いなる伝統
    ・しゃべってくれ!(上図)
    男の枕元に女性の幻影が現れる、といったような超自然的題材を扱っています。男や周りのものがぼやけたタッチで描かれている一方、現実には存在しないはずの女性の方が、丁寧にはっきりと描かれています。まるで、現実と幻想が逆転しているような不可解さを呈示しています。手を伸ばす男からはなたれたような影、明らかにそれ自体が光っているような女性の宝石の光。ミステリアスです…。

    ・遊歴の騎士
    縦184センチありますが、こんなに大きな作品だとは思いませんでした。
    中央にダイナミックに大きな幹を立て、その横に対照的な騎士と裸婦を配した構図です。
    図録には「エティ、そしてティツィアーノやレンブラントに代表される過去の巨匠たちによる全身に血の通うふっくらとした女体の描き方と、生身のモデルを観察することの両方を採り入れて、非古典主義的な人物像を果敢に描いた」とありますが、その通り、この裸婦の描き方は他の肌のつくり方と比べ特徴的です。


    ■ファンシー・ピクチャー
    この章では、愛らしい子供の絵に目が行きがちになりますが、「国王衛士」「使徒」「名残りのバラ」が個人的には気に入りました。「名残りのバラ」は詩に込められた精神性を絵画で表現する一作品として、ミレイの独自のイマジネーションを感じることができる作品だと思います。



    ■上流階級の肖像
    さまざまな表情をかき分け、キャンバスに人間性をうつしとっていくようなミレイの肖像画を多く見られます。「サー・ヘンリー・トンプソン」は、端整に描かれた肖像で、落ち着き払った画面は、ヴァン・ダイクを彷彿とさせます。一方、「トマス・オールダム・バーロウ」は、大き目の筆捌きで生き生きとした表情をつくってます。その他、「ハートは切り札」のような緊張感と物語性を呈示するような表情のつくりなど、ミレイの人物に対する観察眼と表現はすごいですね。


    ■スコットランド風景
    ミレイが風景画をこのように主題として扱っているのは初めて知りましたが、ミレイは「亡くなるまでの26年間に、スコットランドで風景画の大作を21点描いた」ようです。
    ラファエル前派の章では、植物学的、写実的関心が多く読み取れますが、この章の作品には、象徴性や叙情性といったものが前面に来ています。しかし、対象はきちんと捉えられ、タッチで済ましてしまうようなことはしていなく、かなり細やかにつくられています。また色彩についても相当練られていると思います。「穏やかな天気」は良い例でしょう。
    スポンサーサイト
    コメント
    この記事へのコメント
    コメントを投稿する
    URL:
    Comment:
    Pass:
    秘密: 管理者にだけ表示を許可する
     
    トラックバック
    この記事のトラックバックURL
    この記事へのトラックバック