芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • ギュスターヴ・モロー「夢を集める人」自作を語る画文集


    藤田尊湖訳編 2007,八坂書店

    本書は、1986年に刊行された、モロー自身による自作の注釈・解説を集めた「夢を集める人(L’Assembleur de reves)」をもとに、2002年刊行のモローの文書資料集である「芸術について(Ecrits sur l’art)」を比較参照して、訳出、編集されたもの。各作品の作者自身による解説と、訳者がその理解にため補足した、モローの文章が並べられています。図版は、モノクロもありますが、カラーを多く使っていているのが良いです。
    本国フランスにおいて、モローの残した文章が死後86年も経過してまとめられたというのは、少し意外でした。日本では、モローについて知ることのできる文献は数少ないので、モロー自身の言葉に触れることのできる本書は、とても貴重だと思います。

    個人的には、本書は、特に、モロー美術館に行ったことがある人(あるいは行く予定のある人)には、じっくりと味わえるものだと思います。解説されているものの多くが、モロー美術館にある絵画であり、同美術館の雰囲気を味わった後で、本書を読むと彼の思想や信仰といったものがより深く感じられるような気がします。もちろん、モロー美術館展など、展覧会で作品を見たことのある人も、楽しめると思います。やはり、作品を前にして、彼の表現や思想を読み取ることが大切であると思います。

    解説自体は、かなり客観的に、そして淡々と、自作をディスクリプションしているのですが、時折、作品にこめた思いや、表現の背景を語っています。例えば、「ヤコブと天使」では、同主題で描かれたドラクロワの壁画(サンシュルピス教会)を批判し、ヤコブと天使の一晩にわたる格闘が、物理的な戦いであると同時に、精神的な戦いであったことを指摘し、自身の作品ではこれが描き出されている、としていることは良く知られています。また、「ヘラクレスとレルネのヒュドラ」では、ヒュドラの中心の首に、コブラを選んだことで、「私は不動の姿勢のままじっと不安そうにしている怪物の様子を描くことができた」と述べています。このように、情景描写に徹している中で、控え気味ですが、自身の絵にこめる思いや着想が語られるのは、本書の興味深いところです。

    さらに、作品解説とともに並べられている、モローの文章は、彼の思想、哲学をうかがい知ることができて、モローという芸術家にアプローチする上でとても重要なキーを提供していると思います。「芸術について」に、このような文章がまだ集められているようなら、ぜひもっと読みたいです。個人的に気になったのは、孤独について述べた次の文章です。

      
     孤独はあらゆる思考が住まう自然の館だ。詩人に霊感を与え、芸術家を創り出し、そのあらゆる形式と名において才能を刺激するもの、それは孤独だ。(中略)孤独には、それが神によって与えられた孤独ならば、切り離すことのできない道連れがいる。それは貧しさだ。孤独で貧しくあること、それこそが精神世界の英雄の秘密なのだ。少ない持ち物とともに、少ない相手と共に生きること限られた物質的な欲求と魂の限りない満足満足によって、良心を無傷のままに保つこと。あらゆる雄々しい美徳はこうして成され、異教の古代に、稀な、例外的な精神の高貴さであったものが、キリストの掟のもと多くの人々に共有される実例になったのである。


    自らのアトリエにこもり、母や恋人など近しい人間と交際し、一時はサロンの出展も控えていたモローの姿を見ると、この文章は彼の生き方を直に表明したものとして読めると思います。モロー美術館にある彼の幻想と古典の世界に触れられる思想が本書には溢れています。
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