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    『ベルト・モリゾ ある女性画家の生きた近代』 坂上桂子


    2004年に開催されたマルモッタン美術館展において、ベルト・モリゾは初めて体系的に日本に紹介された。今月から、損保ジャパン東郷青児美術館で個展としては初のモリゾ展も開催されている。モリゾやカサットなどの印象派の女流画家は日本では本格的な評価が始まったばかりであり、本書も日本初となる、モリゾを扱う研究・評論である。
    筆者は、彼女が画家として女性であることの重要性を認めつつも、「女性画家」という言葉でもって、ある観点からモリゾ像を囲ってしまうことなく、あくまでも印象派の一「画家」として美術史の中に記述することを目的としている。
    各章、考察の核となるモリゾの作品を挙げ、時系列的にモリゾのキャリアやその中での問題点を扱う。特に前半は、近代における画家と女性、双方の役割・イメージのギャップから、画家になるまでの困難という視点をメインに、彼女の画家への道のりを評伝的に追っている。ここでは、女性であることのマイナス面が当然強調されることになるが、一方での環境的な有利さも描き出されている。それは、モリゾ家のブルジョワ的側面(経済的豊かさから、教養としての絵画教育、志を同じくする姉エドマの存在、モリゾ夫妻の芸術への理解、さまざまな画家が集うサロンなど)である。女性でありながらも、芸術的に恵まれた環境の中で、画家への志を捨てることなく絵に取り組み続けることで、サロンにも成功し、女性画家としてのスタートを切ることになる。
    導入として評伝的であった前半から、社会史的な観点を含めたより深い考察が展開される後半に移る。五章では、19世紀の女性の服装のコードから、モリゾの絵画の理解が進められている。八章では、自画像という観点で、男性・女性、画家・母親などの比較考察をし、モリゾの自画像の特異性を見る。九章では、美術史に欠けがちな、技術的な面から、モリゾの作風、主題転換を見ることもしている。ここでは、短いランダムなタッチから、長い流れを持ったタッチに変わることで、形態の描写、光の表現において利点を見出している。
    以上のような評論からは、印象派の中心画家としてアクティヴに活動していたモリゾ、印象派として、女流画家として多くの問題に挑んでいたまさに「画家」としてのモリゾという面を強く描き出すことに成功している。こうした面は、十分に、既存のイメージ(女流、二流画家、印象派の周辺画家、モデル、など)を壊している。

    注釈が本文の上段に置かれており、参照し易くなっている。さらに、白黒ではあるが、可能な限り図版を挿入している。さらに分かり易い表現をしており、このようなところは初学者などにも比較的親しみ易いようになっている。ただ、先行するモリゾ研究への参照や、その学説の再構成に乏しい。また参考文献の少なさからくる、論点や知識の浅さも感じてしまう。もちろん、本書の位置づけや目的、紙面数を考えるならば、深さや広さの部分には目を瞑らなければならないとは思うが、社会史(歴史学)、社会学、美術(=技術・アート)、ジェンダー論など、さまざまな観点を動員して組まれた美術史学は総花的であるというよりもむしろ芸術の本質の連関を探る見事な論考であるといえる。本書では示唆にとどめられた諸々の観点をより深く広げたモリゾ論を個人的には期待したい。
    他のモリゾ評論として、ドミニク・ボナ著『黒衣の女 ベルト・モリゾ』が最近邦訳出版されているので、こちらも是非参照したい。
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    2007/10/02(火) 15:28:20 | りさのblog
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