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  • 「ジャン=ジャック・エンネル、印象派と対峙して」 ロマン派美術館 Jean-Jacques Henner, Face à l'impressionnisme


    パリで開催中の、ジャン=ジャック・エネル(1829-1905)の展覧会のレポートをします。

    アカデミスムの最後の大物画家の一人ながら、伝統的なアカデミスムからは離れた画風が魅力であるエネルの回顧展が、2008年1月13日までロマン派美術館で開かれています。
    表題邦訳は、準オフィシャルとなる、メゾン・デ・ミュゼ・ド・フランスの展覧会情報ページによりました。展覧会の副題には、「最後のロマン派(le dernier des romantiques)」というフレーズが続いています。また各作品タイトルは、個人的に訳しました。

    作品は、ただ今閉館中のジャン=ジャック・エネル美術館を始めとして、プティ・パレ、オルセー美術館、ミュルーズ美術館などから集められています。この展覧会は、エネルの一大回顧展であることに加え、2008年秋に再オープンする、エネル美術館の「ルネサンス」を知らせるものでもあります。前パリに行った時には、ちょうどエネル美術館が閉館したところだったので、今回このように貴重な展覧会に行けて大変満足でした。
    1858年にローマ賞を得て、その後サロンで好評を得る、1870年代までの古典に忠実な絵画と、その後の30年間を占める、ロマン主義、象徴主義を感じさせる独特の幻想的絵画、の両方を比較して展示しています。このような二つの様式を通して、最後のロマン派? アカデミスム画家? という問いかけをこの展覧会は示しています。

    古典様式の絵画では、オルセー美術館所蔵の「シュザンヌの水浴」(下図)や、ローマ賞をとった「アベルの死体を発見する、アダムとエヴァ」を代表として、いくつかの肖像画が集まっています。このような、古典化された題材による、初期のアカデミスム絵画からは、後の作風は見えてきません。
    しかし、もっと後になって描かれた「横たわる女性(黒い長い椅子にいる女性)」(1869)は、神話・聖書に題を置かない、精緻に描かれた裸婦像であり、画家のキャリアを通じて描かれたモチーフを比較するのに良いと思います。構図、背景のつくり方など後期の作品につながる要素が見えてきます。





    この展覧会で、やはりメインとなるのは、暗闇の中にぼんやりと浮かび上がってくる女性の身体を描く、後期の幻想的な絵画です。
    アンドロメダやマグダラのマリアなどの主題を通して、闇の中に広がる、光をあてられた女性の全身像、というモチーフが繰り返し扱われています。
    背景の森や岩は、大振りのタッチで簡素に仕上げられ、空や沼は、緑の強いはっきりとした水色の単色で塗りつぶされている。そこに白い肌をした裸婦が画面の中心を占める。このように、エネルの描く女性は、形式化・観念化された世界に、あやしく存在しています。
    エネルの美的意識として、女性の曲線美や肉付きにその焦点が当てられているのは間違いなく、繰り返される同主題や同時に展示されているデッサンからもそれは明らかです。
    彼の絵画の魅力は、何度も絵具を塗り重ねて骨格や肉付きを表現するのではなく、黒い背景から簡素な筆捌きでそれらを浮かび上がらせ、同時に、古典的手法に負けない人体の存在感をつくり上げてしまうことだと思います。それは、「墓の上のキリスト」(1879)などの作品が持つ圧倒感から、リアルに伝わってきます。加えて「牧歌」(1879)のような横3メートルになる大画面になっても、単調さや飽きを感じさせないのです。
    さまざまなエネルの絵画を一度に見られた貴重な機会でしたが、一見、簡単なタッチでできているように見える、その裏の表現力にはとても感嘆しました。

    エネルの作品を見られるのは、日本では村内美術館、西洋美術館など少数の美術館だけだと思います。印象主義などの新しい絵画潮流に反するものとして、アカデミスム絵画は切り捨てられるような一面もありますが、アカデミスムの方も、単なる古典絵画のコピーでは終わらず、自らも変化し、独自の魅力を獲得していたということを評価する必要があると思います。


    サロメに取材した「エロディアード」(1887頃)(下図)の奇抜さにも目を引きます。洗礼者ヨハネの首がなければ、ドレスを着た現代の女性です。



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