芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
  • calendrier
  • 鏡の国のアリス


    この間、挿絵を見るついでに『不思議の国のアリス』を読んだので、その続編となる、『鏡の国のアリス』もまたついでと、読んでみました。
    物語を読むのは初めてですが、実は『鏡の国のアリス』は思い出深い作品で、子供のころ、この物語を元にしたクイズ・コラム的な本を読んでいました。この本は、鏡の国の基盤となっているチェスのルールブック的な要素もあって、これをきっかけにチェスをおぼえて、チェス盤も買ってもらった経緯があります。
    ということで、アリスというと、鏡の国というイメージで、テニエルの挿絵も子供のときの記憶にあって懐かしかったです。

    まず、読んでみて、鏡の国の登場人物と、不思議の国の登場人物の振り分けがはっきりしました。映画などでの、両方の登場人物のごたまぜ具合が分かります。
    そして何よりも、不思議の国を超えた、ナンセンスさ(!)。鏡の国ということで、「あべこべ」がキーとなっているのですが、まったく理屈が通らないナンセンスさが、不可解でありながら、滑稽でもあります。アリスもそれにのっているようで、『不思議の国』のような、現実世界に戻るというような意思はなく、鏡の国を楽しんでいるようです。それに加え、後で妹に話すには、のような後日談的文章もいくつか挿入されていて、夢オチがすでに約束されてもいるのです(個人的には少々興さめ)。
    そして、鏡の国はチェスの世界に対照されているので、物語は、チェス盤のマス目に沿った形で展開されます。このお陰で、小川に象徴されるマス目とマス目の分断がはっきりしていて、一マス、つまり一章ごとのストーリー、世界観の連結がほとんどないのです。このいわば共在性の欠如よって、アリスはそれぞれのパラレル・ワールドを行き来しているような印象で、これが上記のナンセンスさ、不可解さを助長しています。
    物語は、大枠では、アリスが白のポーンとなって、最後のマス目にいき女王となって、赤の女王をとるまでが描かれています。しかし、チェスの勝負をダイレクトに移すのは、アリスが赤の女王にあって説明を受ける場面や、赤のナイトが王手(チェック)をして、白のナイトにとられるところくらいでしょうか。勝負の進行は分かりにくいので、チェス盤の対称表をまず見て物語を読んだほうがいいです。僕が読んだ福音館の生野訳は巻末についてましたが…。

    ハンプティー・ダンプティーやティードルダム、ティードルディーなどの主要な脇役たち以外にも、面白い登場人物が魅力的です。しゃべる花や赤の女王、ヒツジ、一角獣とライオンなど皆、どこかネジがはずれています。少し、個人的に面白かった登場人物と箇所をあげてみます。引用は生野訳からです。
    まずは、カです。鏡の国の虫たちを紹介するところも面白いですが、以下のやりとりも面白い。

    「さあ、そこです、もし先生が『ミス』とよばれて、そのあとなんにもおっしゃらなかったなら、」と、カは口をはさみます。
    「むろんあなたはレッスンをミスしてよいわけですな。へへ、これはしゃれなんです。あなたが申されればよかったのに。」
    「どうしてわたしに言えなんていうの?」とアリスは言いかえしました。「それ、とってもへたなしゃれなんだのに。」
    けれどもカは深い深いためいきをついただけでした。ふたつぶの大きな涙が、そのほっぺたをころがりおちるのでした。「そんなに悲しい気もちになるんなら、」とアリスは申しました。「しゃれなんて言わなきゃいいんですのに。」

    作者のキャロルになぞらえられる、白の騎士とアリスのやりとりも面白いです。

    「その歌、とても長いんじゃない?」とアリスはたずねました。なにしろ、きょう、アリスは、とてもどっさり歌をきかされていましたから。
    「ええ長いです、」騎士は答えました。「でも、それはそれは美しい歌なのですよ。わたしがこれをうたうのを聞いた人は、みんな¬――涙を目にうかべるか、それでなきゃ――」
    「それでなきゃ、なあに?」騎士がだしぬけに黙ってしまったので、アリスはひょうしぬけしてたずねました。
    「それでなきゃ涙なんてうかべなかったんですよ。もちろん」


    『不思議の国』同様、いくつか訳者が異なった版があるので、気に入ったものを探されると良いと思います。福音館の生野訳は時代が時代なだけに、やや分かりにくく古風であるので、最近の訳の方がいいかもしれません。
    『不思議の国』と『鏡の国』を読んで、セイヤーズのピーター・ウィムジイ卿シリーズをまた読みたくなりました。やはり、アリスは英国人の文化なようで、セイヤーズの本にちりばめられた数々の引用やもじりが、より楽しめそうです。
    スポンサーサイト
    コメント
    この記事へのコメント
    コメントを投稿する
    URL:
    Comment:
    Pass:
    秘密: 管理者にだけ表示を許可する
     
    トラックバック
    この記事のトラックバックURL
    この記事へのトラックバック