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  • ルドン論 その② ルドンにおける色彩的世界の展開と、多色性による色の対立の克服


     ルドン論の第二稿を載せます。この文章では、ルドンの絵画の大きな特徴になっている、「多色性」を取り上げます。絵を描く人にとっては、どこにどの色を使うか、というのは往々にして、とても迷うところで、「多くの色を効果的に使う」というのは一つの目標でもあるでしょう。こういった色の使い方の難しいところにルドンは積極的に挑戦し、多色からなる魅力的な絵をつくっているのです。その配色の難点について、どのようにルドンはアプローチしているのかを、彼の記述をもとにしながら、検証してみたいと思った次第です。
    ルドンにおける色彩的世界の展開と、多色性による色の対立の克服 

    ルドンの描く、色のついた絵画の特徴は、まずもって色彩の豊かさ、多色性というものにある。まるで宝石を散りばめたかのような、さまざまな色の混在は、美しいところでもあり、まさに黒の作品群と照らし合わせて、懐疑と興味を引くところにもなっている。ルドンの絵に並べられる多色は、まず、彼の描く花という対象に大きく由来しているといえるだろう。ルドンの絵の中では、アネモネやパンジー、ヒナギクなど多種多様な花々が花瓶にさされたり、画面に浮遊しているように置かれていたりしている。次に、彼の描く神話世界の、現実を超えた幻想性や恍惚を作りだす、背景の描写にもそれは大きく貢献している。オフィーリアやオルフェウス、ペガサスは、どことも知れない、混沌とした多色のもやの中に独特の雰囲気を持って存在している。
     個々の作品において、さらに、誰々の、何(色)の時代、というように画家自身のキャリアの一つの時期において、色調を統一することにより、絵の世界観をまとめることは往々にしてあることだが、ルドンの色彩絵画ではそれが見られない。ルドンの絵画は、同系列色、類似色によって画面の色彩的統一を目指すものではなく、逆に様々な色相や明度からなる色を一度に用いることで、一定のバランスを持った画面を構成するものである。
     しかし画面にさまざまな色を置くということは、それだけで、色調的な統一感を崩しかねないものであり、まさに画家の力量が試される難点の一つである。色そのもの同士の対立による不快感に加えて、色の配色によって構図的なバランスさえも崩れてしまうことも考えれば、色の扱いにくさは分かるだろう。
     このような多色を使うことへの困難をルドンはいかにして克服しているのだろうか。まず考えられるのは、対立が深くなりうる、強い原色系統の色を広く用いるのを避け、微妙な中間色のヴァリエーションを作り出し、それを補色と共に使うことで、色の対立や独立感をなくしていることであろう。ルドンは、強い色である、積極的に三原色を用いるが、それらをそのままの形で放っておくことはしない。特に、背景処理においてはそうである。
     これらに関して、ルドン自身は、自己の絵画技法を分析的にはほとんど語っていない。それでも、一般に色の効果について述べているところから、彼の色彩についての考えが分かる。その箇所を以下に引用してみたいと思う。

     補色関係にある色を同じ価で取り上げると、人間の眼にはほとんど耐えがたく見えるだろう。青と橙を等量に混ぜ合わせれば、色のない灰色になるように。
     だが二つの補色を量を変えて混ぜ合わせれば、部分的に殺しあうだけで、灰色の変種として灰色がかった色調が得られる。新しい対照は、二つの補色を並べて置く時、片方は純粋のまま、片方には灰色がかったものを並べることで得られる。この場合衝突は不均衡だから、二つの色の一方が勝って、支配的な色は二つの色の調和を妨げない。あるいはまた同じ色が、エネルギーの度を異にする純粋度において、たとえば濃い青と淡い青を組み合わせると、別の効果が生まれて、相似色の強度の違いによる対照と調和が生まれる。
     
     この記述からは、ルドンの多色からなる画面が、偶然の結果ではなく、考え抜かれた結果であるということが分かる。つまり、対立しあう等価の補色同士を並べることを避け、「灰色の変種」としての補色を用いることで調和を生じさせ、また、たとえば青でも彩度を調整して組み合わせることにより、「相似色の強度の違いによる対照と調和」の効果を出すことができると述べており、確かにこれはルドンの絵画において実践されている。
     さらに、このように様々な色相を効果的に操る一方で、ルドンは、扱う明度の幅も多く、それが彼の絵に深みとさらなるヴァリエーションを与えている。このことは上の引用文に続く、以下の記述が大きく示唆している。

     さらにまた二つの相似色を並列させる時、一つは純粋な状態、一方は鈍くした状態、たとえば純粋の青と、灰色がかった青のような場合は、また別の対照、相似が弱められたものが生まれる。このように多くの方法があって、強め、強調し、弱める、あるいは色の効果を中性化することができる。その色自体はそのままにしておいて、隣りの色に手を加えて、効果を変えることができる。
     最も貴重な方法は、黒と白の導入である。黒と白は、いわば色ではないが、他の色を引き離す役をする。あまりに変化に富み、あまりに強い色で眼が疲れるとき、眼を休め新鮮にする。黒と白に与える割合、それを使う場所によって、隣の色調が高くなったり、低くなったりする。(中略)
     ある時はまた、鮮明な青と赤が隣り合って野蛮な効果を呈する時、それを訂正する役もする。

     以上には、明度調整による画面の調和と、黒と白の効果がはっきりと述べられている。明度調整の方は、グラディエーションの効果として当然のことであろうが、より注目すべきなのは、画家が多種の色彩とともに使う、白と黒の効果を明確に把握していることである。パステルにおいて、白はともかくも、黒は画面を汚しかねない、取り扱いには注意の要る色であるが、ためらいなく、ルドンはそれをきらびやかな色彩の中に首尾よく埋没させている。ルドンが、黒と白によって、画面内の色の対立やうるささを解消し、和らげ、多色を用いることによる不統一感を乗り越えていることは、それまでのモノクロームの画家としてのキャリアがあったからだろう。
     このように、ルドンは様々な方法を用いて、多くの色を混乱なく配置し際立てている。背景も大きく含んで、色彩の複雑なグラディエーションを作り出し、その色彩のうねりの中にある種の統一感を見出していることがルドンの絵画の魅力であろう。これには、前述した装飾的に働く花の存在もあるが、遠近法的な空間を感じさせない、背景の独特の空間づくり大きく起因している。ルドンは、この空間を上手く処理することで、対象を画面の中に調和をもって置くことに成功している。
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