芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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    「ハチミツとクローバー」 羽海野チカ


    美術大学を舞台に、そこで生きる若者の生き方や恋愛の上での苦悩・葛藤・奮闘を描いた漫画。最終的には、漫画だけではなく、テレビアニメ、実写映画などと多くの人気を集め、もはやこんなところで感想を書くのは、というほどに普及してしまった作品ですが、久しぶりにヒットした作品ですのでご容赦。因みに、僕が貸してもらって読み始めたのは3巻あたりが発売していた頃かな?と思いますが、そのときはまさかこんなにブレイクするとは思いませんでした。
    少女漫画というカテゴリのものでは、「赤ちゃんと僕」以来かな。とにかく、アクセスの前に、絵柄とストーリーで少女漫画は敬遠してしまいますが、この二つは、主人公も男で、絵柄も乙女チックではなかったので、そういうところでのとっつきやすさはあったと思います。また個人的にも、今作は美術大学を舞台にしているというところも魅力でありました。東京に出てきてから浜美のモデルとなっているムサビにも芸術祭でお邪魔したりしていて、時間と創作意欲を惜しみなく作品につぎ込めるビダイセーにはやはり今でも憧れます。

    キャッチコピーにも使われていたように、登場人物は全員片思いの状態で、彼らのひたむきな努力やそれが報われないことへの苦悩に作品の心理描写が置かれています。一話で竹本君と一応森田さんがはぐみに一目惚れをしてから最終話まで、この片思い状態は代わることはないですが、さまざまな挑戦と経験を繰り返し、自分の恋愛の意味と、進むべき道を切り開いていく姿が強く、しっかりと描かれています。作中には、韻文的なモノローグが効果的に使われ、コマ割りされた絵柄の連続という漫画の形式に、詩的な調子を与えていて独特の雰囲気をつくっていました。各登場人物同士の表面には出てこない微妙な距離関係など、かっこいい部分、表面の部分以外の行動や感情を意欲的に扱っていたと思います。
    また、心理描写の上手さ以外に、ハチクロを彩るのは各所に散りばめられたギャグですね。青春群像系のノリに濃いキャラクターが満載なのでこれには事欠かない感じでした。森田さんの変人ネタや竹本君とおじいちゃん教授との、加えて真山や野宮さんの青春ネタ、山田さんの鉄人ネタ、キワモノ料理ネタなど幾つかの定番ネタが花咲かせていました。それとこの裏で、リーダーや丹下先生、ルーカス監督、ローマイヤ先輩と非常にクオリティの高い脇役の存在が光っていました。特に、ルーカス監督のお茶目な姿態はとても良かったです。何も言わなくても、ウィンクして舌出しているだけで絵になります。
    さらに、このギャグテイストと青春の甘酸っぱいイメージ、双方を支えていた絵柄も好きでした。簡明で柔らかい線と、空間描写や服しわ・トーンなどを多く省き、人物描写に重きを置く、心地よい脱力感が新鮮でした。特に、女性の目やほほの表現などは、僕の似顔絵描きにおいて多少ならず影響を受けたと思います。

    ハチクロを読んでまた思ったのが、良い作品はまとまりが良いなということです。最終巻も意外にあっさり終わってしまった感じは受けたものの、メインの竹本君の恋をしてからその顛末まできちんと収められていることはもちろん、各キャラクターの進む方向をきちんと描いて、自らのキャラクターを大事にしているラストをつくっているのは評価できます。それと、例えば、野宮さんと山田さんが、真山と理花さんがくっつくとか、そういうここでは蛇足気味になるだろう、いわるゆ「後日談」的内容も確定的に描かず、そこにきちんとしたラインを引いているのも好感を持ったところです。続きは気になりますが、それは別の物語でしょう。

    登場人物も、しっかりとした心理描写ができているからこそ、皆、魅力的でした。個人的には、このキャラクターはちょっと…、というのはなく、どのキャラクターも基本的に愛着がわくような珍しい漫画でありました。でも、ルーカス監督を除いて、主要メンバーの中で共感を覚える人物を挙げるとしたら、竹本君でしょうか。多分、人気投票したら、他のキャラクターの方が上位にくる(?)のでしょうが、庶民派の竹本君の何気ない悩みがジーンときてしまいます。「青春の塔」をパイプ椅子で自ら破壊するシーンは何気にかなりインパクトのあるシーンでした。いうまでもなく、例えば森田さんあるいは真山の存在があるからこそ、竹本君の、また馨などのやりきれない部分が浮き立ってくるのですが。

    そういうことで、このように物語設定、絵柄、キャラクターと多くの点で、魅力を感じた漫画でした。特に世間では「恋愛」の面で押されますが、僕としてはもっと野暮っぽい「青春」とか「モノづくり」の面でお奨めしたい。特にはぐみの絵にかけるひたむきな思いとかはぐっときてしまいます(僕も近い昔、描けなくなったら人生終わりだ、とか思ったこともあったのです)。作者の羽海野さんには次回作にも期待したいですね。
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