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  • ルース・レンデル、ノン・シリーズ!


    ルース・レンデルは、P.D.ジェイムズと並び評される推理小説の女王で、まさに現代ミステリの巨頭。
    世界各国で翻訳が出ていて、揺らがぬ地位を持っているイギリスの女流作家です。

    レンデルのミステリは、本格推理系のウェクスフォード警部シリーズとサスペンス系のノン・シリーズに明確に分けられます。
    コンセプトや性格が異なるので、それぞれにファンを持っている感じだと思います。
    レンデル自身は、やはりノン・シリーズを中心に据えていて、ウェクスフォード警部シリーズは、これだけ売れてファンがいると、止めに止められなかったといった状況があったようです。
    両方のシリーズともにコンスタントに出版されてきていて、双方約20作品、合計して40作品ほどになります。特に超寡作のP.D.ジェイムズと並置される存在なので、この点では多作さが目立っていますね。
    さらに、レンデルは、バーバラ・ヴァインの名義でも、多少趣向が異なるノン・シリーズものを書いています。

    サスペンスでは、やはりハイスミスとともに、僕の中では、というより一般的な評価において、クオリティの高さは文句なしです。
    ハイスミスがじわじわと重いラストへ迫りよっていく感じといえたら、レンデルはツイストを重ねながら揺さぶりラストを導く感じといえるでしょうか。さまざまな場面や人を描く、物語設定の特殊さや奇抜さは眼を見張るところです。
    また蛇足として、サスペンスの中で、独特のダークさやホラー加減を求めるなら、文句なしにコーネル・ウールリッチをお奨めします(『黒衣の花嫁』で女性恐怖症になり、『913号室の謎』でホテルに一人で泊まれなくなった人もいるかもしれません)。

    ノン・シリーズの登場人物は、狂気、異常心理、といったタームで語られますが、やはり、ちょっとした歯車の狂いから、行き着くところまでいってしまった人間、が描かれており、超えてはいけない一線の恐ろしさが良く伝わってきます。
    激昂を抑える、拒絶された愛欲を飲み込む、湧き上がる物欲を自制する、というような私たちの生活でもありそうな場面で、もし理性という安全弁が壊れてしまったら…、という眼を伏せたいような人間の負の心を、巧みな心理描写でもって描き、物語の世界に読者を引き込んできます。
    以下、お奨めの作品の感想を挙げます。

    ■『ロウフィールド館の惨劇』 
    レンデルといったら、まずこれ、というような象徴的作品であり、アクの強い作品でしょう。設定も面白いし、ドキドキハラハラのプロットも見事で、さっと読んでしまえる本でしょう。古本屋ではやはり良く見かけます。

    ■『荒野の絞首人』 
    タイトルですでにパンチをくらいますが、物語の舞台が、人里離れた荒涼とした原野という珍しい作品。
    この土地を幼い頃から知り尽くす主人公が、ある日、自分の庭ともいえる原野で死体を発見するところから物語は転回し始めます。これまたサスペンスには珍しく、フーダニットの要素のある作品で、ラストまで緊張が続きます。

    ■『求婚する男』 
    僕が挙げるレンデル・ベストというか最も印象に残る作品。
    殺人が表に来るような話ではなく、主人公ガイのレオノーラに対する盲目的な恋慕、騎士道精神が問題を引き起こす、という設定で、愛と狂気が問題になっています。いってみれば一方的なストーキングの話ですが、「なんだこれは?」という風にはならず、ガイの一心不乱で、混じりけのない行動に引き込まれていきます。
    レンデルの『石の微笑』や、同じようなテーマで書かれた、ハイスミスの『愛しすぎた男』あたりと読み比べても面白いと思います。読んで損はない、読むならまず先に読んでみて、という作品です。


    入手は、版元が分かれているだけに、困難且つ面倒です。書店で見かける機会も少なくなったので、ネット書店で大人買いできる人以外は、図書館、古本屋に当たった方が早いかもしれません。
    無理なお願いだけれど、同作家作品で版元が分かれているときに、いつも思ってしまうのですが、印刷しないのなら、印刷するところに版権譲渡してほしい…。

    ノン・シリーズなので、どれから読んでも楽しめる、というのが良いです。逆に、シリーズものの「ウェクスフォード警部」の方は第1作「薔薇の殺意」から順々に、としていたら、5作品も読めてない状態で頓挫です。
    ノン・シリーズの近作の数点はまだ訳が出ていない状況ですので、早く出してもらって、読むのを楽しみにしています。
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