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  • パトリシア・ハイスミス『回転する世界の静止点』『目には見えない何か』


    『回転する世界の静止点』初期短編集(1938-1949)
    『目には見えない何か』中後期短編集(1952-1982)
    パトリシア・ハイスミス 宮脇孝雄訳 河出書房新社

    サスペンス小説の巨匠、パトリシア・ハイスミスの死後まとめられた最新の短編集です。
    存在を知ったときは、生前に編まれていた短編集から作品を選択、整理したものかと思っていましたが、全く違いました。
    主なテクストは、ハイスミスの死後、残された未発表のファイルから採られています。それなので、単行本、雑誌等に収録されたものはありますが、ほとんどが本書で初めて公開されるものです。
    特に、『回転する世界の静止点』は、処女長編『見知らぬ乗客』が1950年、処女短編集『11の物語』が1970年出版ということを考えると、いままで明らかにされることはなかった時代のハイスミスの作品集ということになります。
    また、『目には見えない何か』も、何らかの理由で公開されたかった作品ということもあって、共に新たな角度からハイスミスを見ることができる本だと思います。

    『回転する世界の静止点』は、デビュー前の短編ということで、いままで受けてきたハイスミスの印象とは結び付かない作品ばかりです。
    良いいい方ではないですが、後の長編的な印象を持つのは、「広場にて」くらいではないでしょうか。後は、タイトルにもなっている「回転する世界の静止点」を始め、やはりどう読んでいいのか当惑するような気分になります。
    ですが、今までの短編集で特徴的な、ある意味つくられた危うい人間性、秩序立てられた文明などを穿って見る見方は健在で、学校の体育の時間をコミカルに描く「ミス・ジャストと緑の体操服を着た少女たち」、完璧な鑑定眼を持つ贋作コレクターを扱う「カードの館」などは面白く読めます。歪んだ愛情、自己愛、猜疑心、嫉妬、恐れ、など揺れの激しい、陰鬱な人間の心理を取り上げる世界観はハイスミスならではです。

    一方、『目には見えない何か』は長編デビュー後の短編ということもあってか、『回転する~』よりもストーリー自体の面白さを楽しめる作品が集まっています。
    特に、救われずに破滅へ向かう人間、ではく、皮肉が混じりますが、心は救われる人間を描いた物語が意外にあったのは眼に留まる点です。
    これとあわせて、同じ時期に未読だった長編『変身の恐怖』を読んだこともあって、ハイスミス感が少し変わりました。
    また、ハイスミスの得意とする動物を扱ったストーリーもあって、効果的に動物と人間世界を対比する皮肉交じりの物語はやはり面白いです。特に、とても行儀の良い犬が出てくる「人間の最良の友」は、犬好きの人はもちろん、そうではない人も、とても楽しめる作品です。


    僕の拙い紹介はこれで終わるとして、とても詳しい解説が『目には見えない何か』の巻末にあるので、それを参照してもらいたいと思います。
    まだ未発表の原稿があるということなので、このように折りを見て発表してもらいたい、と一読者として思います。

    また、この場を借りていいたいことは、ハイスミスの長編の手に入りにくさ。特に、唯一のシリーズ作品である、リプリー・シリーズは、河出文庫から出ていますが、二三作目は品切で身近な図書館、古本屋でもない状態。一作目『リプリー』がマット・デイモン主演で再映画化もしたわけだし、原作の続編が読めない状態は解消してもらいたいと思います。



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