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  • 『るろうに剣心』再考
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     『るろうに剣心』を簡単に説明するならば、明治11年を舞台とした剣劇漫画であり、浪漫譚というサブタイトル通り、只単にアクションに終始することなく、各人物の生き様や精神的描写に重きをおいた作品、であるといえます。
     内容は、偽抜刀斎事件編、弥彦編、斬左編、黒笠編…と、細かく分けることができますが、こういった作業はムックに任せるとして、大まかに、東京編、京都編、人誅編の三編に分けられ、流れの良い、まとまった作品に仕上がっています。これは、好きな作品でも、ダラダラと続くことによって、作品の質が落ちてしまう漫画は良い作品とは言えない、という、和月氏の主義を反映したものであり、これが作品に展開や辻褄の良さや矛盾しない一貫性を与えています。
     
     るろうに剣心の素晴しさを表わすものとして、キャラクターの魅力が一番に挙げられます。
     るろ剣において、完全無欠なキャラというものは存在しないのです。何かしら弱いところを持って、それぞれの独特なスタンスを持って生き、戦っています。
     主人公の剣心を見ても、ずばり作中で比古師匠が指摘しているように、剣腕は卓越していても、すごく精神的に弱い面があります。例えば、剣心が十年来心に誓ってきた「不殺」の信念でさえも、薫がいなかったら…、赤空の最後の一振りが逆刃刀でなかったら…、という際どいラインで結果論的に守られた産物であるし。それに加えて、大久保卿暗殺後に、神谷道場を去ってしまったり、(ダミー)薫が殺された後、長く落人群に閉じこもってしまったりという事例もこの辺のことを表してます。
     けれど、剣心の人生を見ると、作者のテーマ通りに、「贖罪」というものをどうやって成し遂げるかがきちんとした形で描かれています。表面的に作品を読んだだけでは、あまり「贖罪」というテーマを読み取りにくいですが、ただのバトル漫画で終わらない要素が各所に見られます。例えば、京都編では、単なる自分の命の投げ出しでは、贖罪にはならいことから、生きようとする力は何よりも強いことを悟り、志々雄に勝利するし、人誅編では、罪の償いのためだけに戦い、生きるという、いわばネガティヴな動機付けではない形の生き方を見つけます。
     このような、キャラクターの物理的な強さ、力のレヴェルアップ以外の、人間としての成長は、ほとんどの主要キャラクターについて描かれてます。読み込んでみてください。まさに和月氏が自分のキャラクターを大切にしているところだと思います。

     次に、このような物語としての素晴らしさ以外の魅力は、やはり和月氏の描く絵でしょう。小畑先生を師匠と呼ぶにふさわしい絵です。最初の、書き込みが多く、雰囲気の出た画風も良いですが、京都編がスタートしてからの画風が個人的にはベストです。以後、だんだんと書き込みを減らし、ディフォルメされた絵柄へと変化してくわけですが、これは作者の価値観が変わったということであり、(一部から)残念だ、などといっても仕方ないところです。僕が見るところでは、ディフォルメよりも、線が硬くなったところが気になりますが。

     人誅編後、北海道編や、第二世代編的第二部の草案があったらしく、連載終了後、二つの短編があったものの完全に終了してしまい、もう少し続編を書いて欲しかった感はファン心理としてあるでしょうか。
     因みに、北海道編は、十本刀崩壊後、屯田兵となった破軍の不二、服役中の安慈、北に向かった宗次郎、さらに当時北海道にいた、元新選組二番隊組長永倉新八など豪華キャストを絡ませて進行するものだったらしいのですが、こういう「草案」という形で終わってしまっていると、実に気になりますね(剣心華伝のサイドストーリーで明治十五年には、斎藤一も北海道で任務遂行中であることが判明しているが、これって、実は北海道編の布石だったのか、まったく剣心の預り知らないところで北海道編が進行していたということなのかな、とは思わせる運びではあった…)。というより、こういう第二部議論は、作者のスタンスに反するし、最終巻で和月氏自身がきっぱりと否定している時点で、過去においても現在においても、あまり意義がないですが。

     『るろうに剣心』は、多角的な読み方ができる漫画だと思うし、その意味でも、今でも剣劇漫画の代表作であると思います。新しく読んでみるのも、もう一回読み返してみるのも良い作品です。


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