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芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • ジャン=ジャック・エネル美術館


    ジャン=ジャック・エネル(Jean-Jacques Henner, 1829-1905)は、フランスの19世紀古典画家で、フランス、パリには彼のコレクションを収蔵する国立美術館があります。

    個人的には長年訪問を渇望していた、思い入れの強い美術館です。
    大学の時にはじめてパリに行ったときには閉館中で、次に2007年に行ったときには閉館中(リニューアル開館の前)であったもののロマン派美術館での企画展でコレクションを見られた経過がありますが、大学時から数えると10年以上越しでこの美術館に訪問することができました。
    ※参考: 2007年企画展レポート
    同じく開館を待ってきたエルネスト・エベール美術館はまだ閉館中です(本当にどうなるんだろうか)。

    ジャン=ジャック・エネルは、サロン出展をしてローマ大賞をとりイタリアで学び、その後もサロンで活躍する、という王道のアカデミー画家ですが、その独特の表現からアカデミスムには収まらず象徴主義などの文脈でも語られます。単にアングル主義、デッサン至上/写実主義ではないので、同時代の同じようなキャリアをたどった新古典主義画家と比べても異質で興味深い存在です。

    また日本では「エンネル」「エネール」と表音表記されることもあり一定しませんが、このあたり美術館職員に念のため発音を確認しました。やはり(「エンネル」でなく)「エネル」(ルはフランス語のrの発音なので厳密にはカタカナ発音とは違います)といっていました(それでも私の耳に聴こえる範囲、といえばそうかもしれませんが)。なぜ「エンネル」が広まっているのかは不明ですが、このように発音するのはネイティヴでも少数では、と思っています。

    美術館は、(日本でいう)1階から4階までが展示スペースになっています。
    古い建物なので階段での上り下りは大変ですが、改修によってリフト(エレベーター)が設備されています。
    意欲的に企画展を開催しているようですが、まずはきちんと常設が見たい、という方は確認して行った方が良いでしょう。
    以下、1階から4階の展示内容を見ていきます。

    ■1階
    1階は、ショップをかねたレセプションカウンター、ホール(下ピクチュア。’ Le jardin d’hiver’ 冬の庭園=温室として利用されていたところで、19世紀末に自宅に温室がつくられるようになったことは工業化やブルジョワの振興、エキゾシスムの文脈があるようです)、導入展示を行う部屋(旧ダイニングルームとのこと)があります。
    ショップでは図録、ステーショナリー類が売っており、小さい図版を買ってきました。
    広いホールには、いくつか作品が展示されているほか、美術館建物の来歴が壁面に書いてあります。この建物は、ギヨーム・デュビュフという画家が自宅兼アトリエとして建てたもので、ジャン=ジャック・エネルの死後1921年に、彼の甥の未亡人であったマリー・エネルが美術館とするために購入した経緯があります(ちなみにエネルとデュビュフは面識があったとのことです)。このホールをはじめ、現在の美術館の姿については、彼女のリフォームによるところが大きいようです。
    地階はトイレとロッカーとなっていました。




    ■2階
    主に二つの展示スペースからなっていて、①代表作の中規模作品が集められた部屋と、②小品がテーマごとに数多く展示されている2部屋 があります。
    ①代表作がある展示室では、「聖セバスチャン」(1888サロン出品作、国家買上。4階に習作あり)、「本を読む女」(村内にヴァージョンちがいがあったかと)、「泉」(1881サロン出品)があります。その他、「傘をもつ女」(1874サロン)ほか肖像画完成作、ニンフ作品が展示されていました。



    ②の一部屋はローマの寄宿生時代の1858-1864年までの習作が集まった展示室になっています。ローマ大賞受賞作品の「アベルの死体を見つけるアダムとエヴァ」をハイライトとして、イタリアの風景画が半分以上占めていました。
    またここに連なるもう一方の小部屋(下ピクチュア)には、エネル様式(勝手に名付けますが)の風景画8点、アルザス装束の女性像等、画家の故郷・アルザスに由来、関係する絵画が集められていました。




    ■3階
    企画展示をするための小部屋があり、訪問時は代表作「ナーイアデス」(Nāïade ニンフ、妖精)のためのデッサン習作が10余点展示されていました。また、「ナーイアデス」中央部の裸婦の一人を描いた油彩エスキースもありました。完成作品を見るとフリーハンドでぱぱっと描いたようにも見えるのですが、このような多量の習作をみると、緻密に練られた作品であることが分かります。油彩エスキースもきちんとグリッドが引かれています。
    エネル美術館には1000点近く画家自身によるデッサンを収蔵しているとのことです。
    階段踊場には家族を描いた作品等人物画も3点掛けられていました。




    ■4階
    大作「ナーイアデス」をハイライトにしたメインギャラリーです。「ヴェリテ」(ファーストヴァージョン。ヴァージョン違いの小品もある)がその直上にあり、非常に存在感のある間になっています。
    「ナーイアデス」は縮小ヴァージョンの油彩習作も並列に展示されていましたが、本作では習作から中央の裸婦立像を消し、中央部分は黒(木陰)で塗りつぶしています。こうした修正で、横長の画面構成を生かし、バランスよく左右に視線を流し、裸婦の動きや重なりを際立たせていることが分かります。
    メインギャラリーだけあって、小品、習作類から充実しています。主だったものとして以下のものが展示されていました。
    ・「墓のキリスト」3点
    ・「マグダラのマリア」、「アンドロメダ」、「聖セバスチャン」の小品(習作、縮小ヴァージョン)
    ・「エグローグ(Eglogue)」、「イディール(Idylle)」のヴァージョン違い習作も複数見られる
    ・果物静物画
    ・「エロディアード」(紙に油彩)2点
    ・1852-58のアカデミー時代の裸体習作4点(下ピクチュア2枚目の右側)
    ・アトリエに残されたパレット、画材、机、トルソーなど






    日本ではまずまとまって見ることはできない、そもそも紹介されることがレアなので、エネルに興味を持った方は訪問してみることをおすすめします。パリにはモロー美術館、ドラクロア美術館、ロマン派美術館など個性のある小美術館がありますが、エネル美術館もここに連なる美術館であることは間違いないです。
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    リュクサンブール美術館(2018-19ミュシャ展)


    リュクサンブール美術館は、カイユボットが自身の印象派コレクションを政府に寄贈した際に収蔵先となったことでも有名な歴史ある建造物ですが、現在は国立美術館協会管理の企画展のための美術館となっています。
    美術館よりもリュクサンブール公園のほうが有名かもしれませんが、広くて心地の良い庭園で、パリの人たちの憩いの場になっていますね。

    今回は、2018年9月から2019年1月27日の会期で開催されているアルフォンス・ミュシャ展に行ってきました。
    パリ時代の有名ポスターをはじめ、「百合の聖母」など代表作油彩が展示されていましたが、個人的には、代表作のエスキースや習作などが多く見られたことが収穫でした。『装飾資料集』を見るまでもなく、ミュシャのデッサンや画面構成等のエスキースは非常に素晴らしく、構想ベースであっても完成作品より魅せる点があると思います。
    また、「スラヴ叙事詩」のテーマが大きく扱われていたことも良かったです。スラヴ叙事詩については、近年の本邦開催のミュシャ企画展でも展開されつつありますが、本展においても写真、デッサン、油彩や水彩の縮尺エスキースなどが多く展示されていました。

    ということで、完成作品の裏にあるデッサン、下絵等を多く見せることで、こういった地道な試行錯誤の作業の積み重ねによって、隙のない緻密な作品や息をのむ大作が出来上がっていることを確認できる企画展になっていました。

    図録は非常に凝ったつくりになっていて、本屋にも市販されるようなものになっていました(もちろん欲しかったのですが、荷物にもなるため諦めました)。
    リヨン美術館
    フランス・リヨンにある、1803年開館の歴史ある国立美術館です(建物はもっと古いとのこと)。
    コレクションの幅は広く、古代から現代までの絵画、彫刻、考古学遺物などが鑑賞できます。
    建物は(日本でいう)1階から3階までのつくりで、1階が彫刻ギャラリー、2階がカフェ(日中天気良ければテラスも解放のよう)、ショップ、エジプト遺物~近代調度品、3階が絵画ギャラリーといった感じになっていました。

    以下、絵画部門について述べます。
    絵画ギャラリーに向かう3階階段周囲壁には、リヨン出身の大家・シャヴァンヌの壁画があり見ごたえ十分です(『芸術とミューズにとって愛しい聖なる森』)。
    また、1階の半地下になっている彫刻ギャラリーも見逃せません。下ピクチュアのとおりここにはシャセリオーの大作(「オリーブの園のキリスト」)などの絵画も展示されています。



    絵画作品はガラスをはさまないものが多くかつ近くで観賞できる環境があり、鑑賞者には非常にやさしいといえます(もちろん不用意な指差しなどの接近、咳き込みなどは厳禁)。
    15世紀から20世紀まで幅広くマスターピースをコレクションしていますが、特に19世紀が厚く個人的には好みでした。トマ=クチュール、シャセリオー、クールベ、ファンタン=ラトゥール、シャヴァンヌあたりは秀作がそろっています。また当然といえますが、リヨン派と呼ばれるイポリット・フランドラン(1809-1864)、ルイ・ジャンモ(1814-1892)を始めとする、リヨン出身の古典画家も充実しています。特にルイ・ジャンモの代表作「魂の詩(Le Poème de l'âme)」シリーズは、18枚の油彩画に対し一つの展示室が与えられていますが、緻密で圧巻の仕上がりです(下図)。



    リヨン美術館は日本ではあまり知られていないですが、たとえば印象派だけを見る、などでも十分に訪問する価値はあるのでリヨンに訪れた際は行っておきたい美術館です。
    以下、絵画作品の常設コレクションを示しておきます。

    ヴェロネーゼ、ティントレット、A.デル・サルト
    レーニ、リベーラ、ジョルダーノ、スルバラン、グレコ

    プッサン
    ヴァンダイク
    ピーテル・ブリューゲル、ルーベンス、ヨルダーンス

    ブーシェ、シャルダン、フラゴナール、プリュードン
    ユベール・ロベール
    サー・トマス・ローレンス
    シャヴァンヌ、イポリット・フランドラン、ルイ・ジャンモ
    ジェラール、アングル
    ドラクロワ、ジェリコー、シャセリオー
    メッソニエ
    トマ=クチュール(極めてクオリティの高い裸婦作品あり)
    クールベ、トーミエ
    テオドール・ルソー、ドービニー、ミレー、コロー
    カリエール(エルネスト・ショーソン家族肖像大作あり)
    ブーダン、マネ
    モネ、シスレー、モリゾ
    ファンタン=ラトゥール(人物、静物、神話画、自画像と一通り見られる)
    ドガ、ルノワール(2点)