芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • 【ブダペスト】 ハンガリー国立美術館


    ブダ王宮を構成する荘厳な美術館です。
    英雄広場にある西洋美術館は国外の西洋絵画を、そしてブダ王宮の国立美術館はハンガリー絵画を扱う美術館になっています。双方を回れば、ハンガリー美術、ヨーロッパ美術を十二分に堪能することができます。

    近代ハンガリー絵画というと日本ではあまり馴染みがなく知られていないと思いますが、素晴らしい絵を残した画家がたくさんいます。この点は、同じ時期のベルギーやロシアなども共通しています。
    自分がハンガリー絵画に着目し始めたのは、2003年に文化村で開催された「ミレー3大名画展」で、このときはミハーイ・ムンカーチ、チョーク・イシュトヴァーンが展示されていましたが、この後はハンガリー画家を扱う企画展などには遭遇していません。もっと過去をさかのぼるといくつかハンガリーの美術展が開かれているようですが、今後少しずつでもハンガリー美術が日本でも紹介されていくと良いと願っています。

    19世紀のハンガリーの画家はほとんどがウィーン、ミュンヘン、パリなどで学び技術を習得しており、国外で活躍した画家も多く、諸外国の画家と比べてもまったくひけをとらないと感じます。この時期はハンガリーでもアカデミスム、自然主義、印象主義などの絵画潮流が現われ、各分野で優れた画家が輩出されています。ハンガリーの文化芸術の成熟については、二重帝国の時代背景も関係しているのでしょうか。

    さて、美術館は4階相当のつくりになっていて、階が上がっていくにつれ新しい年代の絵画のセクションになっています。
    1階(グランドフロア)は大作を展示するギャラリーになっていて、エントランスを抜けると、ベンツール・ジュラの迫力ある歴史画大作が迎えてくれます。

    見どころとなるのは、19世紀のハンガリー絵画セクションで、アカデミスムでは、ロッツ・カーロイ、セーケイ・ベルタラン、ベンツール・ジュラ、チョーク・イシュトヴァーン、印象派ではフェレンツィ・カーロイ、シニェイ・メルシェ・パールなどの絵が見られます。なぜか訪問した時はミハーイ・ムンカーチの作品がなかったです(見過ごしていたのか何なのか)。
    ロッツ・カーロイ、セーケイ・ベルタラン、ベンツール・ジュラあたりの女性像は、確かなデッサンのもと、ミステリアスで甘美な独特の雰囲気があります。
    また、Gyárfás Jenőの作品がとても人体、表情の表現に秀でていて印象に残っています。
    公式サイトでは、収蔵作品の図像をセクションごとにまとめて公開しているので、参照してみるといいと思います。

    現代美術コレクションも多く展示しています。こちらも、絵画、立体ともに非常にヴァリエーションある展示となっていて、面白く見て回ることができます。

    展示環境については、主に上階展示室で、照明が明滅していたり、照明の色が異なったりと、お粗末なところもありました。らしい、といえばそうなのかもしれません。
    また、別料金で写真撮影も可能ですが、やはりチケットを監視員に見て確認してもらわないと、カメラチケットを持っていても注意される、というようなことが起こりました。
    とにかく広くて展示量もあるので、気軽に休めるスペースやカフェなどが充実しているともっと良いと思いました。マーチャーシュ教会の方まで出れば、いろいろお店はあります。
    ネームヴァリューは劣りますが、19世紀絵画を中心にクオリティの高い作品が多数揃っているので、新たな発見をしに出かけていってもらいたいと思います。

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    『交換の社会学』
    『交換の社会学 G・C・ホーマンズの社会行動論』
    橋本茂
    世界思想社,2005

    社会的交換理論で知られる社会学者ホーマンズの理論解説書です。
    一般に流通する、日本語で読める唯一の解説書になっています。
    ということで、ホーマンズ理論に加え、社会交換理論を知るための概論としても貴重かと思います。
    ここら辺の事情はちょっと残念ですが、仕方ありません。

    本書は、だいたい、主著『社会行動』をなぞる構成となっており、社会交換理論の依拠する基本姿勢や枠組みを知ることができます。
    社会交換という視座は、かなりミクロ的というか、個人意識準拠の方法論的個人主義の要素が強いので、大きな社会学とは一線を画しています。
    一見すると、あまり社会学的ではない、ともいえるかと思います。それなので、正統的な社会学的見地からは、誤解や軽視が生まれやすいのかも知れません。
    まずホーマンズ社会学に向き合うには、ホーマンズが小集団を分析の基礎的な対象として捉え、その秩序化(安定化)の問題を扱ったということ、小集団に属するメンバーが持つ判断軸を主に心理学から適用していることに注意する必要があるでしょう。

    たとえば、マクロ的社会変動論が意味をなさないというわけでも、小集団理論のみでそれが説明可能であるともいっているわけではないのです。
    あくまで、権力、服従、同調、統合・結合、相互行為、攻撃、排斥、解散などなどの社会学的分析に値する行為は、個人個人がやりとりを行う小集団において発達するのであり、それらは社会的交換の視座で説明可能ということを提示しているのです。
    個人的には、小集団も社会的規範や道徳秩序にかなりの部分依存して構成されているので、ホーマンズ的な視座がマクロ的な要素を排除しているとは考えません。方法論の問題として分析概念の整理をしていくべきだと感じます。

    本書は、ホーマンズ社会学の社会学史的経緯、位置づけを概論する小論も収録されており、ホーマンズのたどった軌跡や理論的変遷を詳しく知ることもできます。
    やはり、先読みになろうが後読みになろうが邦訳文献あってこその解説書なので、絶版本が復刊されるなど、ホーマンズの著書にアクセスできる環境が整うといいなと感じます。

    アントニオ・ロペス展 Bunkamura ザ・ミュージアム


    現代スペイン絵画の巨匠である、アントニオ・ロペスの回顧展です。
    日本では(というかアジアでは?)初めての本格的回顧展であり、画家自身の協力もあり、絵画、彫刻ともに秀作、大作が来ており、非常に質の高い展覧会であったと思いました。

    アントニオ・ロペスについては、ほとんど予備知識がなく、表層的にいわれているような、リアルな絵を描く画家、くらいにしかイメージはなかったです。
    しかし、今回いろいろな作品を通じて見て、アントニオ・ロペスをリアリズム画家という風に片づけてしまうのには抵抗を覚えました。
    というのも、批判ではないのですが、アントニオ・ロペスの絵は、デッサンが超絶技巧的に上手いとか、スーパーリアルなマチエール表現をしているとかではなく、とどのつまり一般的に現代のリアリズムと呼ばれているものからは一線を画していると感じたからです。
    正直、デッサンについては生得的なレヴェルでもっと上手くやる画家はたくさんいるし、対象の質量感表現に目いっぱいとりくんでいる様子もありません。デッサンについていえば、(フリーハンドではなく)細かい補助線に依存している感もあったり、パースが正確なのか疑問に思う箇所もあったりと、粗も見えてくるような出来だと感じます。
    こうして見ると、アントニオ・ロペスをリアリズムという言葉で持ち上げるのは本質を外しているような気がしてなりません。もっと、画題や表現に隠れている精神性などに目を向ける必要がある画家であると思います。たとえば、画家本人が語っているのを見ましたが、風景画なら写真を使ったりしてアトリエで仕上げてしまうこともできますが、アントニオ・ロペスは夏に描いた作品はまた来年の夏まで寝かして、イーゼルを現地まで持ち出して描く、ということを行っているようです。こういった対象との向き合い方からも、ただ単に形象をそのままに写し取ることを主眼にして描いているのではないということが推測されます。また、あえて、「絵になる」ようなピクチャレスクな画題、画家の技術を誇示しやすい画題ではないものに精力的に取り組んでいることも大きな要素としてあります(展覧会を通じて、シリーズ化されたものや、作品群から統一的に感じるテーマが見えてきます)。おおざっぱにいえば、近代性というものに親和的なものに目を向けており、それらの持つ独特な精神性を、その表現に見合った無機的なタッチをもって描こうとしている、ということが見えてきます。

    希有な画家の貴重な回顧展であるので、少しでも気になっている人はまず行ってみるのをおすすめします。
    【ブダペスト】工芸美術館


    ハンガリーを代表する建築家レヒネル・エデンの設計による美術、博物館であり、その特異な外観が目を引きます。ジプシー王の宮殿、というような異名もあるそうで、ひときわ存在感があります。
    レヒネル・エデンの設計の建物はブダペスト市内にいくつかあるので、建築を見に回ってもいいでしょう。ちなみに彼の像は工芸美術館入り口そばにありました。

    工芸や装飾を扱う美術館は収蔵・展示品が多岐に渡るものですが、この美術館もこれに漏れず、さまざまな美術品を展示しています。
    常設は展示量過多になることなく、年代順に金銀器、陶磁器などをまとまりよく展示していたのが印象に残っています。多くの収蔵品からセレクトされているだろうということもあり、とても精巧で、綺麗な品々が並んでいました。
    また、ハンガリーのレースを陳列してある展示室もあり、個人的には満足度が高かったです。現地のアンティークのレースで、質よく仕上げられた大作というのはなかなか鑑賞できる機会はないですし、テキスタイルパターンとして見ても非常に凝っていて興味深いと感じます。
    その他、現代の作品を扱った展示室もあり、これも非常に面白い作品が多く、見応えは十分でした。
    ちょっと中心地から離れてしまうのでアクセス的には良くないかもしれませんが、建築、収蔵品ともに一見の価値はあります。



    ラファエロ展 国立西洋美術館


    イタリア・ルネサンスを代表する巨匠、ラファエロ・サンツィオの企画展です。
    世界的に見ても第一級の画家であるため、まとまって真筆に触れられる機会は大変貴重です。
    今回は素描も併せて、23点の作品が展示されています。

    平日にいったものの、最近の美術展のなかではかなりの混雑でした。
    チケット窓口は行列が出来ていて、展示室も密度が高かったです。
    鑑賞時間もあまりとれなくて、じっくりと鑑賞できなかったのは残念でした。
    加えて、常設も見られなかったのも心残り。

    展覧会の目玉は、「大公の聖母」という、トスカーナ大公フェルディナンド3世が所有していた聖母子像です。
    黒塗りの背景は後世に塗りつぶされたものであるとのことですが、聖母子を焦点化し神々しい雰囲気を増している感じがします。作品の状態、来歴なども含めて考えれば、後世の加筆なり改変があながち悪ともいえないのかと考えさせられます。
    この他、細やかに仕上げられたゲオルギウス像や、部分的に残っている祭壇画(「父なる神、聖母マリア」「天使」上図)が良いと思いました。
    いくつかある肖像画類は結構作風や質にバラつきがあり、自分が持っていたラファエロ像の修正をせまられました。
    また、関連作品も多数集められており、多角的にラファエロを知ることができるように構成されていました。