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  • ホーマンズの社会交換理論
    ジョージ・キャスパー・ホーマンズ(1910-1989)は、社会交換理論で知られるアメリカの社会学者です。学生時代は英米文学を専攻していたものの、就職が上手くいかず、ホーソン実験で知られるメーヨー、レスリスバーガーらのゼミに参加することになり社会学の道を志すこととなったという、異色の経歴を持った人物でもあります。

    ホーマンズの社会学理論は、小集団やそこで交わされる相互作用を研究対象とした社会心理学の分野にカテゴリできますが、心理学実験に依拠する割合が大きい点では、その中でもさらに心理学寄りだと感じます。彼自身、デュルケムが心理学からは社会学理論は導けないとした主張に対抗して、自らを「心理学的還元主義者」と自認していることからもうかがえます。

    ホーマンズの理論の中身を知って、実際に著作を読んだのが最近であり(といっても全て絶版になっていて、読めたのは今のところ主著『社会行動』のみ)、大学を卒業してから今までホーマンズ理論をリファーしてこなかったわけなのですが、社会交換理論の視座は相互作用とその構造化(安定化)を見るうえでは欠かせないものであると考えます。個人的には、リファーするのが遅くなってしまったのは残念な感じもします。
    ホーマンズの受容・評価に関してですが、学部レヴェルの授業では(少なくとも自分が在籍した学部、時代においては)あまり取り上げられないようですし、社会学の教科書、導入書などでも扱われることは少ないといえると思います。ということで、二次文献・研究書もめぼしいものが少ないのも残念であり、不可解な印象すら受けます。
    この点は、おそらく、ホーマンズにしろ、同じく社会交換理論を発展させたピーター・ブラウにしろ、社会交換理論をさらに掘り下げた研究成果を残していないことが大きいのかなと想像しますが。

    社会交換理論は、二者間の社会関係性を「交換」、つまり報酬や罰(マイナスの報酬)のやり取りとして定式化する視座です。社会関係は、心理学的な基本命題あるいは社会的規範等によって基礎づけられて、何らかの報酬の交換を通して構築されることを示しており、社会関係の程度もその報酬の質量等によって規定されてくるとするものです。
    この理論の特徴は、いくつかの社会心理学、心理学上の命題を前提とすることにより、相互作用や社会関係の発達あるいは解消の過程を合理的、即物的に描くことができるという点だと思います。ホーマンズが掲げる命題は、社会心理学において、広く受け入れられているものであり、成功命題(ある行為は報酬を受けるほど反復される)、価値命題(行為結果に価値があるほどその行為が行われる)等が並べられています。このような人間に広く妥当する行為性向によって社会関係を読み解くことにより、極めて統一的に個人や集団内関係を把握できるのです。集団内の構成員の関係・相互是認の程度を点数化してマトリックスにてモデルとして示していることにもそれは顕著にあらわれています。
    また、ホーマンズは、このブログでも以前扱ったフリッツ・ハイダーのバランス理論にも言及しており、この理論も交換理論の視座のもとに理解されることを説明しています。

    さて、社会交換理論は、社会関係の生起と構造化(安定化)を扱っていますが、一つの大きなイシューは何が交換されるのか、ということです。いいかえれば、何が報酬として扱われるのか、ということです。
    もっとも基本的で重要なものは、社会的是認です。現代社会においては、この社会的是認がより希少財となっている点、さらに、社会的是認を交換できうるコミュニケーションが発達している点で、社会的是認のやり取り、行き来を見る交換理論は鋭く関係性や行為の分析を行えるものになっていると考えます。社会的是認の交換、自己承認や他者承認に焦点を絞って、複雑化、多面化する現代のコミュニケーションを見ることで、その特殊性をひも解く足掛かりにすることができると思います。SNSの発達や、傷つけ合いの回避を第一に目指す「優しい関係」などなど論点はたくさんありますが、この点は、あとの考察に譲ります。
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