芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • ドガ展 横浜美術館


    エドガー・ドガの大回顧展です。
    巡回はせず、横浜美術館での開催となっています。横美へは、昨年の「フランス絵画の19世紀」展に続いて2度目の訪問になりました。

    ドガというと、印象派、踊子の画家、といったイメージが先行しますが、初期の歴史画は知っていないとドガ作とは見えないし、印象派的な作品を描く中でもリアリスム的な絵画をいくつも残しています。また、ルノワールと同様に、新古典派の巨匠アングルの信奉者でもありました。この展覧会でも、印象派の画家ドガ、に単純に当てはまらない作品を多数見ることができ、ドガのイメージをより膨らませることのできる内容になっていると感じました。

    個人的には、さまざまな表現、性格、雰囲気を持った絵が混在しており、ドガという画家をよりつかみにくくなるような気さえしました。
    10年もの準備期間を要し、いくつかの習作が残る「ベルレッリ家の肖像」。馬は大ぶりな筆で大まかに処理されている一方、騎手の表情は不釣り合いに上手く描かれている「落馬した騎手」。上手いデッサンがいくつも展示されている中で、即興的に描かれ、人体が崩れているような踊子のパステル画。カサットが描かれている「美術館訪問」のような簡明で、大まかな構成の油彩と、「綿花取引所」「バレエの授業」のような複雑で手の込んだ油彩。幻想的な風景画の数々。
    このように、めまぐるしく転調するかのように多種多様の画題・表現が視界に飛び込んでくるようで、ドガの妥協をしない試行錯誤、挑戦の姿勢が伝わってきます。
    最晩年に取り組んだ、踊子の彫刻も見ることができます。
    これだけまとまってドガの作品を鑑賞できる機会は初めてで、今後もそうはないと思うので、行くことができて満足でした。
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    『絵筆をとったレディ』アメリア・アレナス


    『絵筆をとったレディ ―女流画家の500年―』
    アメリア・アレナス 著
    木下哲夫 訳
    淡交社、2008年

    書名のとおり、女流画家にスポットをあて、その位置づけや価値を(再)評価しようとする、まさにハンドブックのような本です。最初は、女流画家について美術史・社会史的に扱ったテクストなのかと思っていましたが、そんなに難しいものではなく、カラ―絵と短い文章をさらっと読みつないでいける本になっています。
    まさに冒頭でも「本書は、「女性による美術の歴史」を正面切って論ずるものではな」く、女性の画家の作品を、「そのものの本来の姿、つまり見るに値する絵画として見るようにする」ための「招待状」であると、作者が述べているところです。

    ルネサンス期からロココ、印象派を代表とする近代絵画へといたる美術史のなかで、名前と作品の知られる、30人弱もの女性画家が取り上げられ、簡潔で的確なディスクリプション、作品・背景の解説が付されていきます。一つの作品につき、文章は2~4ページほどなので、少々物足りなく感じるときもありますが、作者が章の流れのなかで、上手く作品を選び、比較し論じており、それぞれの作者・作品解説は独立して読めるものの、それらが一連の文脈をもった文章として通読できるのも素晴らしいところだと思います。こういうところは、いわゆるソムリエ的な作者のセンスや力量が感じられます。
    個人的にも、女性画家についてはそれほどの知識もなかったところなので、こういった手に取りやすく、分かりやすい解説書は願ったりでしたし、最近のいくつかの展覧会で本書に登場する画家の作品を何点も鑑賞できていた、ということも理解する上で大きかったと思いました。

    作者のいうように、女性画家の絵のそのものの魅力にいざなう招待状として本書は格好の入門書だと思います。巻末にはきちんと作者のプロフィールや年表も載っています。