芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • ウフィツィ美術館自画像コレクション 損保ジャパン東郷青児美術館


    有名なウフィツィ美術館の自画像コレクションを紹介する展覧会です。
    膨大にある自画像コレクションから80点ほどが来ていました。

    カタログも買わなかったし、ウフィツィ美術館の自画像コレクションの成り立ち・歴史・位置づけについては知らないのですが、画家・美術(界)を社会科学する、という意味においても興味深い対象であるかな、とぼんやり思いました。つまり、自画像という主題、権威的機関の存在、その主体的な行為(権威付け、認知、収集など)、画家の寄贈・自己認識、などなどの要素を介在させる「自画像コレクション」というものが、美術(界)における、自己表象や社会的な認知の仕組みを探るのにいくつもの良い事例を提供しうる題材だと思ったわけです。
    あまり深くは考えなかったので問題提起で終わりますが、これについては美術史論文・社会科学論文でも読みたいと思いました。

    展示されていたコレクションは、前衛的な現代美術的なものが結構多くて個人的には後半は流し見になってしまいました。日本人のものも展示されていましたが、図画工作的な装いがまぬかれないような感じに見受けました。やはり自分には前衛やポップは理解・内省できないのかと思われます…
    気合いが入っている??自画像は、個人的な趣味の範囲でいえば、レンブラント、ル・ブラン、アングル、レイトン、シュトゥック、クラウスくらいかなと。あとは、ニコラ・ファン・ハウブラーケン、ヨハンネス・グンプの自画像の構成の仕方、エリザベート・シャプランの色遣い・塗りが気になりました。ローザ・ボヌール作とされている女性像もかなり気品良くまとまっていて印象に残っています。

    ル・ブラン、レンブラント、アングルはかなり良かったです。
    ル・ブランのものは、構成的に、画家であることと女性であること、二つのアイデンティティの表現がかなり上手くいっている作品だと感じました。人物の表現の美しさはもちろんなのですが、色の構成にも目を見張るものがあり、くすんだ背景、漆黒のドレス、と抑えられた画面に赤いリボンが大胆に配されていて、それが全体を引き締めるかのような緊張感を画面に与えています。なかなか赤の遣いというのは難しいのかと思いますが、この女性像については反則的に機能しているような印象です。
    レンブラントは、表情は暗闇から浮かび、逆にそれ以外は暗闇に沈んでいくような明暗や塗りの使い分けがされていて、さすがに自画像が神々しい雰囲気さえ持っているかのようでした。
    アングルは、寄贈依頼を受けたもの、虚栄と受け取られるのを嫌ってかかなり制作が遅れた、と書いてありました。そのようなアングルの厳しさを伝えるような自画像になっていて、全体がすごく抑えめな色調で、流麗に仕上がった正統的な自画像のような趣です。
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    トレチャコフ美術館


    パーヴェル・ミハイロヴィチ・トレチャコフと、その弟のセルゲイが収集したコレクションよりなるモスクワの美術館です。彼らが残したコレクションは、死後も膨大に膨れ上がり、現在は15万点以上に及ぶ収蔵品を持つ、ロシア屈指の美術館になっています。
    ここで紹介する本館の他、コンテンポラリーアートを展示する新館もあります(パーヴェル・トレチャコフは現代絵画をコレクションに入れないで欲しいと願っていたそうです。…別館になっているからいいのでしょうか)。
    日本でも、2009年にコレクションを紹介する展覧会が開かれ、トレチャコフ美術館や19世紀ロシア絵画がより知られるところとなったと思います。自分も、この展覧会を機にロシアの19世紀絵画に注目するようになったので、今回、早々に美術館を訪れることができて良かったです。それにしても、トレチャコフの半身像を前にした、このファサードは趣あり過ぎです。

    展示作品は、18世紀から20世紀までのロシア絵画と、イコンです。
    大美術館にはそぐわない小さな扉を入っていき、2階から展示は始まります。18世紀絵画は古典的な感じで、大作も少なく、記録的な肖像画が集まっていたような記憶があります(時間の都合もあり、ちょっと飛ばし飛ばしで見ました)。
    メインの19世紀絵画は、やはりかなりの質・量を誇る作品からなっており、入り組んだ各展示部屋は、どれも大変に見ごたえあるものとなっていました。新たに発見した画家については後記します。
    2階の19世紀絵画を重点的に見て、出口に差し掛かる1階にイコン部屋がどーんと構えています。こちらも見る人にとっては眉唾ものなのかと思いますが、価値が分からず流し見で終えました…
    これで時間もいっぱいだし、出るのにもちょうどいいのかと思っていたら、1階には20世紀絵画の展示室も控えており、完全に時間配分を間違えてしまいました。20世紀絵画も、非常に個性強く、面白いものであるので、それなりの時間を割くべきだと思います。

    流石に本場?だけあって、日本展で注目した画家たち、ペローフ、レーピン、クラムスコイ、クインジ、シーシキンなどは、代表作が集まり、かなり充実した内容となっていました。小ぶりなファサードからは伝わりにくいのですが、美術館は結構な広さ・高さがあるので、大作が壁いっぱいに並べられているのは本当に圧巻という感じです。
    それでは、以下、日本展のレヴューでは紹介できなかった画家のうち、メモに残せた画家をピックアップしていきます。

    E.S.ソローキン Evgraf Semenovich Sorokin(1821-1892)
    K.S. フラヴィツキー Konstantin Dmitrievich Flavitsky
    “Princess Tarakanova”(タカラノワ王女)という歴史的事件に取材した大作があります。ドラマティカリーで叙情的な作品です。フランスのロマン派(たとえばアリ・シェフェールなど)に通じる作風を感じさせますし、表現力をとっても比肩する作品だと思います。
    M.A.ヴルーベリ Mikhail Aleksandrovich Vrubel(1856-1910)
     ロシアの象徴主義画家。油彩のほか水彩、彫刻、ステンドグラス、壁画など多くの作品を見ることができます。独特のモチーフ、画面構成、タッチなど見る者を困惑、圧倒させるものを持っています。
    I.K.アイワゾフスキー Ivan Konstantinovich Aivazovsky(1817-1900)
     海洋画で知られる画家。海、大気の質量感の表現に優れていて、ドラマティック、センシティヴなものを感じさせます。
    V.M.ヴァスネツォフ Viktor Mikhailovich Vasnetsov(1848-1926)
     神話・宗教などを主題とした絵を描いた画家のようです。「三人の勇士」「灰色の狼に乗ったイワン王子」など、強い筆致で見る者を引きつける構成の絵だと感じました。
    V.I.スリコフ Vasily Ivanovich Surikov(1848-1916)
    “The Boyarynia Morozova” "Morning of the Strelets' Execution” “ Menshikov in Berezovo” など、大作が目立ちました(習作もいくつかあります)。横が数メートルにもなる巨大キャンヴァスにダイナミックに民衆を配し、事件の緊迫した一瞬を切り出すかのような画面づくりは、ただ茫然とさせられる、という一言に尽きます。主題もそうですが、色の暗さ、人物の表現、厚めのタッチなどなど、個人的に思う近代ロシア的な要素をふんだんに持ち合わせている画家だと思いました。“ Menshikov in Berezovo”(下図)などは、主題の意味などは良く分からないにしろ、この時代のロシアの家族をリアルに表現した絵だと強く感じさせられるものを持っており、各人物の表情・姿態が深く感情・内面性を表しているような絵になっています。
    M.V.ヤクンチコワ=ヴェーバー?? Maria Vasilievna Yakunchikova-Weber(1870-1902)
     リアリズムに分類されない画家の中では、一番に気になった画家です。周囲と比べても表現が独特で、異彩を放っています。視界の切り取り方、軽やかで面白く膨らむタッチ、中間色の遣い方、など親密的で詩的な絵だと感じました。

    かなりの数のコレクション画像を公開する太っ腹な公式サイトがあります。
    www.tretyakovgallery.ru/
    またじっくりと鑑賞したいと思う魅力的なコレクションでした。近代ロシア絵画が、日本でもさらに紹介されることを祈っています。


    Vasily Ivanovich Surikov "Menshikov in Berezovo"



    Maria Vasilievna Yakunchikova-Weber "From a window of an old house"
    ミュシャ展 高崎市美術館 高崎市タワー美術館


    アルフォンス・ミュシャの生誕150年を記念しての大回顧展が2010年4月から始まっています。岩手、三鷹、北九州と続き、高崎は4会場目になります。
    展示作品は、祖国のチェコの各美術館、フランスのオルセーやカルナヴァレ美術館、そして日本で有数のコレクションを持つ堺市から来ています。堺市の良質の収蔵品は収集家の土居君雄氏のコレクションを引き継いでいるとのことで、堺市文化館にミュシャ館なるものがあるという事実も初めて知りました。

    高崎の会場は、上記の2会場にわたるものとなっていて、このような展覧会も初だったと思います。駅をはさんで両側に美術館があるので移動などに不便はありますが、これが高崎クオリティということでいいんじゃないかなと。
    さらに、タワー美術館も初めて入ったんですが、ちょっと展示環境はいまいちかなと思いました。個展などには向いているのかと思いますが、無機的でこまごまとしたつくりがこういうそこそこの巡回展にはマッチしないです。

    個人的な注目点は、どれだけミュシャの油彩・テンペラ類の「肉筆画」が見られるか、ってことだったのですが、下絵なども含めてかなりの数を見ることができて満足でした。
    前のミュシャ展のときも同じ感想を持ちましたが、完成作の裏にある、デッサンが半端なく卓越しているということです。『装飾資料集』や壁画の下絵、その他デッサンなどが展示されていましたが、的確な描き込みと陰影・質感の表現ができていて、ポスターにはない魅力が十分に感じられます。下絵の墨の線も上手いです。
    油彩類は、あまりタッチを重ねたり、明暗を強調するようなものではなく、いってみればライトな部類になると思いますが、トーンの作り方が非常に洗練されていて、幻惑的な雰囲気を持ち合わせています。ミュシャの絵は、普通の太陽光を光源としたようなものはあまりなく、画中の光が大変につかみにくく、ヴァリエーションのあるものになっていて、その空間での人物表現が美しい、と感じます。この辺は、ポスターやパステル画の関係性でも論じられるべきだと思います。ウミロフ・ミラー、ハーモニー、自力、クオ・ヴァディス、などを見比べると、どのトーンでも上手くこなしていることが分かります。

    カタログを見ると、高崎では展示されていなかったものが多数収録されています。会場ごとの展示コンテンツを知る表などはありまんが、会場ごとで適度に展示替えをしていて、やはり堺市の会場がメインとなるんでしょうか。
    印刷のレヴェルはちょっと物足りないです。色のヴァリエーションが複雑なので、紙面に忠実に再現するのは無理なのかと思いますが、全体的に色調が違う印刷などが散見されます(「自力」など)。
    それと、装飾資料集・人物集が売ってましたが、値段にひよってしまいました… いつか手に入れたいものです。
    プーシキン美術館 19・20世紀ヨーロッパ・コレクション部


    休みを利用してモスクワへ行ってきたので、パリに続いて美術館をいくつかリポートします。
    プーシキン美術館は、日本でも、シチューキン・モロゾフ・コレクションを紹介する展覧会が催され、マティス「金魚」で知られている美術館です。このヨーロッパ絵画コレクション部は、プーシキン美術館本館とは別館になり、3フロアの展示室を持つ美術館になっています。地下には、クローク、カフェ、グッズ・書籍の売店があります。
    本館ともに常設しかなかったのもありますが、コレクションの充実ぶりと比較するに、人の入りはまばらな感じでした。

    展示は、ほぼ年代順に、流派ごとになっています。1階からはじまり、2階、3階へと続いていきます。
    コレクションは、その名が示す通り、フランス絵画を中心とした19・20世紀の近代絵画であり、新古典主義・ロマン主義から、バルビゾン派・印象派を通して、新印象派などポスト印象派・フォーヴィズム・キュビズムなど主要な絵画潮流を一望することのできるものです(ロダンなどの彫刻もあり。アングルより前の時代の絵画は本館にあります)。
    特に、コロー、モネ、ゴッホ、ゴーガン、セザンヌ、マティス、ピカソあたりの充実さは目を見張るものがあります。それ以外も、限られたスペースに多くの画家の作品が置かれ、各部屋がヴァラエティのある展示室になっていると感じました。
    ここでは一点ごとのピックアップはやめて、どのような画家の作品が見られるのかを簡単に記録しておきます。ほぼ展示順になっています(ピカソ以降は割愛気味…)。

    **

    アングル、ドラクロワ、ドラロシュ、オーラス・ヴェルネ、ドゥカン、ゴヤ、ジェリコー
    ドービニー、ディアズ、コロー、テオドール・ルソー、デュプレ
    トロワイヨン、ミレー
    クールベ、ドーミエ
    アルマ=タデマ、ジェローム、トマ=クチュール、カバネル
    ヴィンターハルター、ルートヴィヒ・クナウス
    ルパージュ、イスラエルス

    マネ、ブーダン、ドガ、モネ、シスレー、ピサロ、ルノワール
    ロートレック、ファンタン・ラトゥール
    セザンヌ、ゴーガン、ゴッホ
    レイセルベルヘ、シニャク、エドモン・クロス、フランク・ブラングィン、カサット、ムンク
    シャヴァンヌ、ドニ、ルドン、カリエール、ヴュイヤール

    マティス、アンリ・ルソー、ドラン、ユトリロ
    ピカソ、ミロ

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    個人的には、ルドンの「春」という大作が印象に残っています。大胆に枝分かれする大きな樹木と、それに寄りかかる裸婦が描かれた絵です。ルドンというと、まず色数が豊富な絵画を思い起こしますが、この作品は大画面にもかかわらず、色数はかなり抑えられており、全体が、くすんだベージュにおおわれています。それでいて単調さを感じないタッチや装飾はさすがですが、描かれているモチーフと、このトーンがあいまって、神々しい雰囲気を漂わせています。これは機会があったらもう一度お目にかかりたい絵でした。
    上で挙げた画家のコレクション以外では、ヴィンターハルター、ルートヴィヒ・クナウス、ルパージュ、ヴュイヤールあたりが、完成度のある良いものが集まっています。

    画集はいくつかありましたが、大きいものはかなりの重量があり、価格もするので断念しました。主要なコレクションは一応網羅してるポケット版があったので買いました。