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    山寺・後藤美術館所蔵 ヨーロッパ絵画名作展 大丸ミュージアム・東京


    山形県にある後藤美術館の作品を見せる展覧会です。
    うらわ美術館でやっていたときには行けなかったので、今回行くことができて良かったです。流石に、山形までは行けないという人は多いだろうし、美術館としても定期的に巡回するほうがベターなんですかね。

    さらっと作品を見てみて、錚々たる大画家の作品が並んでいるので、改めて驚きました。
    ブーシェ、ナティエ、グルーズ、ジェリコー、ブーグロー、カバネル、コロー、ミレー、クールベ、などなどとコレクションは相当充実しています。ドレやポインターなどの作品もあるのも良いですね。

    ■19世紀アカデミスム以前
     ナティエ「落ちついた青色の服」は、ナティエにしては、塗りこみを抑えていてふんわりとした印象を受けました。やはり、西美のナティエなどの完成度から見れば、落ちる作品かなと思います。
     アカデミスム絵画コレクションは、かなりクオリティが高いと思います。特に、カバネルの「アラブの美女」(上図)と「パオロとフランチェスカ」。「アラブの美女」は、独特の雰囲気を放つ、完成度の高い作品です。陰影や質量感の表現が上手く、服と肌はもちろん、服もレース部分を描き分けています。「パオロとフランチェスカ」は、オルセーにある作品の縮小ヴァージョンです。作品には手抜き感はなく、一流の美術館のコレクションにあってお かしくない作品だと思います。ブーグロー「愛しの小鳥」は、ブルジョワの子女を描いた絵で、ブーグローの子供の絵ではあまり見ないタイプのものだったので、新鮮でした。顔の素晴らしい表現に目がいく作品です。エネルもマグダラのマリアを描いた比較的大きな作品が来ていました。エネルらしく、背景処理は簡明に済ませ、肉体表現に重きが置かれています。エネルの堂々とした画面構成と人体の表現は、とてもひきつけられます。
     ちょっと離れたところには、ドレの「城の夕暮れ」が展示されています。叙情的な作品で、夕暮れの空や樹木は浮き立つように、厚塗りされています。

    ■バルビゾン派周辺
     バルビゾン派を代表する画家は大半が見られます。
     ジュール・デュプレ「月明かりの海」は、海と空の暗い青が映える作品。雲の微妙な色つかいや、ダイナミックさが良いです。詩的な、幻想的な作品です。
     シャルル・エミール・ジャック「月夜の羊飼い」は、月の光を背景にし、羊の群れと羊飼いを浮かび上がらせる、直接的に逆光を用いた作品です。灰色の中間色の表現がとても素晴らしく、タッチは抑えてあるものの、ひしめく羊の様子がリアルに表現されています。
     フランソワ・ドービニー「山間風景、コートレ」。ドービニーは迫力ある絵を描いているなあ、と見るたびに思います。平べったい塗りながら、川の流れはタッチを変え、激流の表現に成功しています。
     クールベは、3点ほどきていたように思います。1865年制作の「オルナンの渓谷」は、クールベとしては、落ち着きすぎていて(?)、ちょっと不思議に思いました。丁寧に細やかに仕上げられた作品ですね。
     あとは、銅版画家のジュール=ジャック・ヴェイラサの作品が気に入りました。トロワイヨンも、久しぶりに彼の牛に会えたという感じです。それと、ディアズ・ド・ラ・ペニャの風景画も新鮮な感じでした。バルビゾン派周辺画は作品も多くて見ごたえがありました。

    ■その他
     フランス絵画以外のもので、いろいろな作品があります。ムリーリョもあるというのがすごい。
     アンジェロ・マルティネッティ(1846?-1908?)の狩猟静物画は、とても見ごたえありました。背景の壁になる木板は、木目はもちろん、絵具の盛り上げによって、切り口まで表現されています。イノシシとシカの毛並みもそれぞれ質感を変えておりとても精緻です。上部に描かれた植物の葉もリアルですが、動物がリアルすぎて、逆に塗りこみの甘さが目立つくらいです。
    エドワード・ジョン・ポインターは、ロイヤルアカデミーを代表する画家です。最後には、会長も務めています。「ミルマン夫人の肖像」(下図)は、会場の中でもひと際光る絵。隣に展示されているミレイの「クラリッサ」がさらりと描かれているのに対して、肖像画だけにとても力が入っています。人物はもちろん、背景のタペストリまで筆が行き届いています。それでいて、人物を浮かび上がらせる中間色のつかい方も上手いです。



    ルノワール+ルノワール展 Bunkamura ザ・ミュージアム


    印象派の画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールと、その子の映画監督、ジャン・ルノワールに焦点を当てたユニークな展覧会。
    オルセーの特別協力あっての展覧会とあって、オルセーにある代表作が貸し出されています。もちろん、オルセーでも常設していない作品や、その他の美術館からの作品も多くあるので、見慣れた作品だけのルノワール展にはなっていません。
    盛んにプロモーションしていましたが、混雑はしていなく、ゆっくり見られました。作品数もほどほどだったと思います。主に有名作品以外で気になったものを以下に取り上げます。

    「小川のそばのニンフ」(上図)は、初期の作品。横長の画面に、横たわるニンフの全体像を描いた作品で、黒と白が対比されていますが、肌には緑が使われており、色調もまとめられています。肌の塗りは勢いがある感じですが、背景は初期作品らしく、けっこう筆が入っています。ニンフの視線を観者にあわせるなど、官能性も読み取れます。

    「闘牛士姿のアンブロワーズ・ヴォラール」。ヴォラールはルノワールと親交のあった画商です。晩年の作品ですが、良くまとまった作品だと思います。足の表現は少し気になりますが。モデルの雰囲気をかもし出す、重厚感ある作品だと感じました。

    「陽光の中の裸婦」(下図)は、印象派展で物議をかもした有名作です。副題に試作(Étude)とあるように、背景などは、荒いタッチを数回重ねただけですが、木漏れ日の中の裸婦の表現は何度見てもすごいです。ルノワールの中でも傑作の中の傑作という感はあります。ジャンの映画作品もリファーされていますが、絵画表現との差は歴然です。

    「白い首飾りをつけた女性」は、しかっりと描かれた女性の肖像画で、1880年の作品です。写実性があり、人物が生き生きと表現されており、80年代の作品のクオリティの高さを示すような作品だと思いました。


    ジャンは、妻そして、映画づくりのためにせっせと父親の作品を売ったわけですが、金と地位を得た後年、父親の絵を買い戻すために奔走し、一度は切れた父とのつながりを求めていったというのも、少しジーンときてしまいますね。
    ジャンが書いた父ルノワールの伝記も読んでみたくなりました。




    ウルビーノのヴィーナス 国立西洋美術館


    フィレンツェのウフィツィ美術館所蔵の、ティツィアーノ作、ウルビーノのヴィーナスをメインとした展覧会です。ティツィアーノのヴィーナスは、プラド美術館展での「ヴィーナスとオルガン奏者」以来ですね。

    ティツィアーノのヴィーナスをメインとするだけあって、ヴィーナス(ウェヌス)を扱った作品が全体に展示されています。ウェヌスとクピド、パリスの審判、ウェヌスとアドニスなど、ウェヌスを主題とした関連作品が並んでいます。絵画作品以外にも壺などの工芸作品もありました。
    作品数もほどほどなので、さらっと見られる展覧会だったと思います。余裕があったので、常設まで見てきました。やはりこっちもクオリティ高いです(定期的に見てますが、やはり、ナティエとヴァン・ダイクですね)。

    さて、ウルビーノのヴィーナスですが、もっと人だかりを予想していましたが、普通にゆっくり見てこれました。この前のフェルメール展のように、遠くにある作品を立ち止まらずに眺めるというような、見る気を削ぐような展示ではなく、全体を近くで見られる展示で大変良かったです。
    全体の印象としては、発色がとても綺麗で、1500年代に作られた作品とは思えない感じでした。すごいお金をかけて修復作業をしていることは確かでしょうが、これほど明るく綺麗な画面だとは思いませんでした。特に裸体を包む、布の白は、色あせが感じられないほど白かったので驚きました。画面の明るさやウェヌスの裸体を際立たせています。暗い緑と対比された、赤の使い方も良いです。
    同じ展示室にある工房作と比較すれば完成度の高さは一目瞭然で、布や花、背景まで筆が行き届いています。この作品だけの展覧会ではもちろんないですが、やはりこの作品が、ずば抜けて際立っています。マネのオランピアに至るまで、後世に与えた多大な影響というのも分かります。

    また、「ヴィーナスとアドニス」の主題の章でも、ティツィアーノの作品が見られます。ティツィアーノの作品では、狩に出るアドニスを引き止めようとするヴィーナスの姿が描かれています。狩に赴くアドニスと猟犬の力強さが、弱々しいヴィーナスとの対比でとても良く表現されています。ティツィアーノの作品の中では、形をしっかりとり、固い印象の作品です。

    ティツィアーノの作品以外では、アンニバレ・カラッチの二点が良かったと思います。リアルな肉体表現は他と比べてとても際立っています。画面構成も工夫されています。

    ティツィアーノの作品は、かなり昔の展覧会で、「フローラ」を見てから圧倒されっぱなしです。これからも見ていきたいです。
    『名画を読み解くアトリビュート』


    木村三郎『名画を読み解くアトリビュート』  淡交社,2002

    西洋絵画を見る上で必要となってくる、アトリビュート(持物)を分かり易く解説し、基本となるアトリビュートの小事典や読書案内等を添付した良書。冒頭では、ヴィーナスには薔薇、マリアには百合、という例を用いてアトリビュートやそれを読み解く図像学(イコノグラフィ)を説明しています。
    神話やキリスト教の題材が主たる西洋絵画において、約束事になっているアトリビュートを知って絵を見るか、見ないかということは、やはりその絵にどこまでアプローチできるかに差が出てきます。ただの女の人の絵として理解されていたものが、誰々を描いた絵で、この人にはこういうストーリーがあり、この場面を描いた絵だ、という風に、アトリビュートは絵を読み解く手段を与えてくれるのです。絵というのは、それなりの意味が付与されているものであるし、それをまず知って作品の背景や作者の意図を探るのが、絵を見る、ということだと思います。近代では、象徴派などのように、それが明示的なものではなくなって、内面的、個別的なものになってきますが、ルネサンスなどでは、明確にこれは、誰のアトリビュート、というものが決まっていて、その約束事の中で、画家は、受胎告知や放蕩息子などの題材で、独自のヴァリエーションを構築するわけです。
    そういうことで、58ものアトリビュートを解説した小事典を載せた本書は、日本ではあまりなじみのない神話画や宗教画をより深く楽しむには、格好の入門書だと思います。
    僕も美術史のゼミで、デューラーのメランコリアを少々勉強しましたが、この本でもデューラーは多く使われていて、デューラー作品のさまざまなアトリビュートが例に示されています。分量もそこそこで、インデックス化されているので、読みやすく、いろいろな知識が知れて面白いです。