芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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    画材メモ アクリル絵具
    最近注目している画材はアクリル絵具です。
    前までは、速く固まりすぎて扱いにくいな、と思っていましたが、また近頃使い始めて、アクリルの特徴を再評価してきています。

    まず、速乾性で、やはり制作を急がされる分、油絵具の比にならないくらいの制作スピードが得られて、気軽に構想を試せます。
    そして、乾燥後の耐水性や不透明感(隠ぺい力)により、普通の水彩絵具より重ね塗りに適すること。
    重ね塗り派な僕にとって、こういう部分はとても良いです。水彩を重ねると盛り上げたところはヒビ入るし、修正痕が残るし、やりすぎると紙が痛んでくるし。
    あとは、マットな質感です。
    日本画的な表現に興味があるので、日本画の発色や均質的な色のびの良さに近い表現ができます。
    最後に、これは陰ながら結構影響力があると思うのですが、綺麗に画材を使用し保存できること。
    速乾性のために、キャップを閉め忘れたり、適当に閉めると絵具がオジャンになってしまう。それなので、使って固く閉める、が切実な要請となり、チューブを最後まで綺麗に使わざるをえないのです。逆に、油絵具は、チューブは閉めなくても表面は固まるものの、中は概して大丈夫で、そうして使ってると、チューブの口の周りから絵具が固まってきて、そこからチューブが汚れあってしまう…。そういうことで、絵具がいつも同じ品質で綺麗に使えるのは、モチベの点でも助かったりしています。

    以下には、各メーカーのアクリルのメモを載せときます。
    各メーカーのサイトと、美術手帳の画材特集を参照したものです。
    個人的に使っているのは、ターナーのガッシュです。色数が多く、変わったシリーズがあるのが良いし、普及しているというのも大きいですね。
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    ルドン論 その② ルドンにおける色彩的世界の展開と、多色性による色の対立の克服


     ルドン論の第二稿を載せます。この文章では、ルドンの絵画の大きな特徴になっている、「多色性」を取り上げます。絵を描く人にとっては、どこにどの色を使うか、というのは往々にして、とても迷うところで、「多くの色を効果的に使う」というのは一つの目標でもあるでしょう。こういった色の使い方の難しいところにルドンは積極的に挑戦し、多色からなる魅力的な絵をつくっているのです。その配色の難点について、どのようにルドンはアプローチしているのかを、彼の記述をもとにしながら、検証してみたいと思った次第です。
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    『ギュスターヴ・クールベ ある画家の生涯』マリー・ルイーゼ・カシュニッツ


    『ギュスターヴ・クールベ ある画家の生涯』
    マリー・ルイーゼ・カシュニッツ 鈴木芳子訳
    エディションq 2002

    ドイツの女流作家カシュニッツによる、フランスの写実主義の大家、ギュスターヴ・クールベの評伝。

    カシュニッツは、「第二次大戦前夜パリでクールベ回顧展をみて彼の作品に魅了され」、「大戦下のフランクフルトで困難のなか資料収集にあたり、執筆に没頭した」ということで、本書の出版は1949年である。資料を明確に並べ客観的に考察する、美術史家のような語り口でなく、短い章を重ね、画家の内面の描写に力点を置く語り口で、物語のように読める評伝になっている。

    数々の伝説的なエピソードからは、カシュニッツのいうように、クールベの非常に大胆で、反抗的な生き方や、自信家ぶりがありありと伝わってくる。幾つのも大言壮語、独りよがりで怒りっぽい性格、国家権力に頑なにはむかう態度は、オルナンの自然と一緒に育った子どものままの姿であり、多くのスキャンダルを引き起こす種となるが、一本気で人間味ある気性、見事な写実主義絵画を産み出し続けるひたむさもあって、なかなか憎めないところである。
    特に、パリ万博の際、代表作の出品を断られ、これに対抗し個展を開いたという有名な出来事の前にやりとりされたクールベの手紙は面白い。
    クールベは事前に、ニューヴェルケル大臣の午餐会に招待され、パリ万博への出品を要請されたのだが、クールベはこの手紙に、「大臣は馬鹿のなかでもきわめつけの馬鹿者」であり、「奴は私を二万フランか三万フランで買収できると思い込んでいる、とんだお門違いだ」と、名誉ある話に意を解さず書き綴っている。そして参加を拒否し、大臣が「たいへん高慢な方ですね」というと、「私はフランスで最も高慢で思い上がった男なんです」と答え、何と、国が彼の作品である『水浴びをする女たち』の「法外な入場者数で取得した一万五千フラン」を返せ、と切り返したということだ。ことあることに有頂天になり、大言壮語する彼の性格も考慮しても、とても面白く読める。

    この個展開催後も、レジオン・ドヌール勲章を拒否したりと、彼の引き起こす事件は大きな問題となるが、画家としての力量をうかがわせるエピソードも数多くある。
    新古典主義の大画家アングルをして、「この青年は目そのもの」といわしめ、対するロマン主義を代表するドラクロワからも一目置かれた卓越した表現力はまさに新しい時代を切り開くものだったし、友人の一人が、クールベのキャンヴァスに描かれた「谷の彼方にある茶色のもの」は何か見てきてくれ、と彼に頼まれたが、それは紛れもなく柴の束であり、実際に見てくると確かに柴の束であった、という伝説的逸話を報告していることからもこれは明らかだろう。
    加えて、弟子たちの前では、「パレットナイフを用いて、わずか数分で異国の風景を描き上げる」という制作実演ショーができたというし、酒場ではビールの泡を用いて、机にあっという間に絵を描けた、という驚異的な技量を持っていた。さらに、レンブラントの絵を模写した際、それをオリジナルのかわりに24時間かけておいたが、誰も分からなかったらしい。

    本書は、クールベの生い立ちを、勉強嫌いで、絵で身を立てること決心した青年時代、やがてパトロン、ブリュイヤスとの絆を結び、一躍、時代の寵児となった成功の時代、そしてパリ・コミューンに参加し、スイスに逃れ失意のまま一生を終える亡命時代まで、画家の内面を中心に描きながら、同時に作品の解説や批評にまで及んでおり、クールベの画業全体を歯切れよく伝えている。とりわけ、最後の逮捕、亡命の時期は、成功期の姿の失せた悲痛なクールベの様子を迷いなく書き綴っており、それまでと一転、もの悲しさが残るところである。

    クールベの美術史的な研究書は他に読んでいないので、この本に現代ではどのような位置づけがなされているか分からないが、クールベに興味のあるものなら、さらっと読めてしまう内容で、画家の人生を振り返り、作品を見ていく上で格好の書であると思う。
    巻頭などにカラー図版などは残念ながらないので、一冊クールベの画集を持って見ると理解が違うだろう。また巻末には、詳細な年譜が付いており、これは本書の読解の助けになってくれる。