芸術、書籍、音楽などのレヴュー。あるいは随筆。 - Revue de l'art, le livre, la musique etc, ou essai.
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  • ティツィアーノとヴェネツィア派展 東京都美術館


    日伊国交樹立150周年記念の企画展で、表題のとおりヴェネツィア・ルネサンスの重鎮、ティツィアーノを中心に据えています。

    同じく、日伊国交樹立150周年特別展として、国立新美術館で「アカデミア美術館所蔵 ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展が開催され、ティツィアーノの代表作が日本で多く鑑賞できる機会が続いています。
    本展も、「ダナエ」「マグダラのマリア」「教皇パウルス3世の肖像」など、まさに教科書級の作品が一堂に会しており、豪華な内容となっています。
    また、ベッリーニ、ティツィアーノ、ヴェロネーゼ、ティントレット等、ヴェネツィア出身の巨匠の作品も展示を彩り、新美の展示とともに、華やかなヴェネツィア・ルネサンスを満喫できます。

    いつも感想として書いているのですが、ヴェネツィア・ルネサンスとくくられるなかで、やはりティツィアーノが傑出していることが今回も強く印象に残ります。
    ルネサンス絵画なのですが、たとえばその次のバロック期の肖像画の大家、ヴァン・ダイクと並べてみたとしても、ティツィアーノの肖像に古臭さや古典っぽさを感じない。
    量感を増すタッチ、色彩や人体・表情の表現は、通時的に魅力を保持しているようです。
    ミケランジェロが「ダナエ」に対してデッサンをなじったようなエピソードがありますが(これは後世の伝聞・伝記の域なので真偽不明。確かに「ダナエ」以外も「マグダラのマリア」上半身など人体デッサンに正確なのかと見えなくもない)、それはミケランジェロの求める域が高すぎるのであって、デッサン以外の人物表現や画面構成、色彩などはそれを補っても余りあるほどであるのは疑いようがないです。
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    鈴木其一 サントリー美術館
    江戸琳派の絵師鈴木其一の企画展です。

    鈴木其一は、江戸琳派の大家酒井抱一の弟子で、その後継者である絵師です。
    抱一というとまだ江戸中期のイメージですが、鈴木其一の没年は安政年間であり、江戸後期、そして幕末にかかっています。こうしたことからも、江戸琳派を媒介し、近代日本画の萌芽となる重要な位置にいる絵師なのです。

    昨今の琳派ブームにあっても、やや抱一の陰に隠れてしまっている感もあって、私の其一に対してのイメージは漠としたままでした。
    今回の展覧会は、盛況かつ内容も充実しており、鈴木其一のオリジナリティやポジションを広く確立したものになった感があります。

    内容は、其一の代表作を集め、かつ抱一以下江戸琳派の絵師の作品も同時に紹介するものになっています。
    其一が師抱一から多くを吸収し、それを体現していった過程を見ることができます。
    また、独自の手法を模索し、さまざまな技法や画題に挑戦していったことも示されています。
    明暗をもった大胆な筆さばき(風神雷神図)、デザイン性やリズム感をもった表現(朝顔図屏風)、そして生き生きとした、ややサイケ感も感じる色調表現など。
    革新性をもった表現でも、古典の習熟、畏敬そして再解釈によって構成されており、鈴木其一の絵師としてのメンタリティ、プライドも感じることができます。
    ルノワール展 国立新美術館
    印象派画家、ピエール=オーギュスト・ルノワールの回顧展です。
    オルセー美術館・オランジュリー美術館所蔵ということで、教科書級の折り紙付きの作品ばかりでした。
    ルノワールの個展は、2008年の「ルノワール+ルノワール展」(Bunkamura)、2010年の「ルノワール ―伝統と革新」(国立新美術館)と定期的に開催されていますが、本展は、ムーランドラギャレット、ダンスシリーズ、ピアノを弾く少女等が揃っていることで、この中でもクオリティ的には群を抜いている印象を受けます。これらに遡るマイベストの2001年の「ルノワール展」(ブリヂストン美術館)に比肩するものであったと感じました。

    個人的に注目する初期(1960年代~70年)、中期(1880年代)の作品についてはもちろん揃っていましたが、後期、晩期の作品も作品数があり、この点ではバランスよく画業を俯瞰する構成となっていました。また、肖像画以外の、風景画や静物画、デッサンもほどよく展示されていました。関連作品の展示もヴァリエーションがあって面白かったです。

    一般にルノワールと聞いてイメージされる作品の多くが、1870年後半から1885年くらいまでに描かれた作品ではないかと思いますが、やはりダンス連作など見ると、この時期の作品はデッサンと色のバランスや画面構成など細かく練られており、見ごたえがあります。特に、シュザンヌ・ヴァラドンをモデルにつかった「都会のダンス」は女性のラインとドレスを映えさせるために、男性を画面構成上の物体・道具として効果的に使っています(これは「田舎~」よりも明示的です)。また、「田舎~」と対置させることで、女性の性格やその場の雰囲気、物語性までも醸し出しています。このような面は、群像画でも発揮させており、「ムーランドラギャレット」や「船上の昼食」(本展には展示なし)などに結実しています。
    後期になると、タッチや画面構成などの趣きが変わり、デッサンよりも、肉体表現の量感や色彩に重要度がシフトしていきます。また、パリの都市性などが脱色された古典回帰のモチーフが増えていっており、この点も晩年の作品を語る上では見逃せないでしょう。ルーベンスなどに通じる、普遍的な価値としての裸婦や人体表現という意識がはっきりと見て取れます。上で言及したいわゆるルノワール画と違うので苦手とする方も多いのではないかと思いますが、ルノワールの多面性としての魅力になっていると思います。
    メアリー・カサット展 横浜美術館
    印象派の女流画家メアリー・カサットの回顧展です。
    日本での回顧展は35年振りだそうですが、メインに取り上げられる企画展もそうそうなく、ほとんどの人が彼女の画業を俯瞰する初めての機会になったのかと思います。

    一口に印象派の画家として語られることが多いのですが、最初から印象派グループに属して画法を吸収していったわけではなく、アメリカからパリに渡りアカデミーの絵画を学んだり(ジェロームやトマ・クチュールに師事)、スペイン、イタリア、オランダ等各地に赴いて巨匠の絵を研究したりして素養を積んでいっています。画家としてスタートした20代はサロンでの活躍を志向しており、ドガの先導により印象派に参加するのは30代からです。ということで、アカデミックな教育や趣向のもと、(印象派的なタッチの中にも)デッサン等の基本はしっかりとしており、この姿勢は後年になっても作品を見る限り変わっていないようです。おそらく、カサットとドガがお互いの作品に感銘を受けたのも、デッサンにあったように個人的には感じます。この点は、ほかの主要印象派画家の意識があまり向いていない点で、カサットがずば抜けている点です。展覧会では、この修行期の作品もいくつか展示されており、過去の大家からエッセンスを吸収しようとする姿勢が見て取れます。

    カサットと聞いてまず彷彿される母子像も完成度の高いものがいくつも展示されており、回顧展の充実度を高めていました。
    また、彼女が、油彩やパステル以外にも、版画作品を多く残しており、多色刷り銅版画など大変クオリティが高いことにも驚きました。印象派周辺の例外にならずカサットも日本の浮世絵からの影響を受けていたとのことで、主題や遠近感のない背景や装飾的な構成などにそれが表れていると感じました。
    関連作品の展示もあり、内容的にもよかったです。
    ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち 国立新美術館
    日伊国交樹立150周年特別展として、フィレンツェ、アカデミア美術館のコレクションを紹介する企画展です。初期から晩期までのルネサンス期ヴェネツィア絵画を見ることができます。

    展覧会の核はティツィアーノのサン・サルヴァドール聖堂祭壇画「受胎告知」で、キャンヴァスサイズ410 × 240cmと相当に迫力があります。影響を与えたとされるエル・グレコの受胎告知よろしく、ドラマティックな構成と筆致によって描かれています(調べてみたら、エル・グレコはこの作品を見ている、とありました)。静謐な作品の多いティツィアーノで、これほど勢いのあるタッチはあまり目にしないので驚きもありました。もう一点の「聖母子(アルベルティーニの聖母)」は穏やかで、対照的に映ります。
    ほか、ティントレット、ヴェロネーゼなどの大家の作品もありました。
    また、ティツィアーノの影響を受けていると説明されていた、パドヴァニーノの作品も気に入りました。「オルフェウスとエウリュディケ」と「プロセルピナの略奪」ともに量感のある肉体表現に圧倒されました。特に「プロセルピナの略奪」のほうは、プロセルピナとプルートの重なり合いと対照が良いです。

    平日にいきましたが人はまばらで、おそらく土日でも混みがないように思いました。
    作品数も約60点と多くなく、ゆっくりとヴェネツィア絵画を鑑賞できる企画展でした。